2005年12月18日日曜日

物語に閉じこもる少年たち

セオドア・アイザック・ルービン、金原瑞人/訳、林香織/訳(ポプラ社、2002/10)

心を病む、デビッド、リザ、ジョ−ディ、リトル・ラルフィ、4人の10代の若者の物語。
アメリカ精神分析学研究所の所長として臨床に取り組む著者のルービンは、臨床で得た経験をそのまま記録するのではなく、小説というスタイルでまとめている。

精神病というと「特殊なビョーキ」という印象が一般的だ。
しかし、現実にはすべての人が多かれ少なかれ内包していることは間違いない。
皆自分を守るために自分の中に閉じこもり引きこもり他人を傷つける。
昨今の、弱いものをターゲットにした異常犯罪、自殺者の増加を見ても「病んでいる」ことはハッキリしている。

介護する人たちの努力により快方に向かうケースが物語で語られるが、その相手を思う熱意とずっと繰り返す忍耐力は大変なことだろう。
と、人ごとのようになってしまう自分が情けない。

デビッドとリザ
破瓜(はか)病と人格乖離の症状を併発しているリザと強迫症をはじめとするいくつかの精神症の症状が複合して存在するデビッド。
お互いに関心を持ち、お互いに快方に向かう。
患者間の交流を描いている。

ジョ−ディ
「ユラユラ」を片時も離さず自分の殻に閉じこもるジョ−ディ。
先生サリーとともに4年間を過ごし心を開いてゆく。
障害を持った子供と上手く接することが出来ない母親、ジョーディは母親を「知らない人」「女の人」と呼び、サリーと一緒にいない週末を「サリーじゃない日」という。

リトル・ラルフィと人形(人形)
緊張病と人格解離の症状を併発しているリトル・らルフィと呼ばれる少年と、その少年に感情移入し、悩みながら治療に当たるイザベラ。

肉親を突然失ったショックから「自己」と「人形(ひとがた)」に分裂した少年。
「自己」は自身の中深くに潜り身体との接続を絶っていまう。

2005年12月11日日曜日

耽溺者(ジャンキー)

グレッグ ルッカ、古沢 嘉通/翻訳(講談社文庫、2005/2)

アティカス・コディアックが活躍するボティ・ガード・シリーズ第一作「守護者(キーパー)」で紹介されるブリジットの印象。
ブリジット・ロ−ガン。
28才、185cmのアグラ&ドノバン探偵社に所属する。漆黒の髪を方の長さまで伸ばし、細身でたくましい肩、美しい卵形の顔に先の尖った顎、小振りな口に肉厚の唇、そして見事に青い瞳。

本書は、アティカス・コディアックを語り手とするシリーズの番外編。
「守護神」でバイカーズ・ジャケットにいくつものピアスという出で立ちで、ちょっと情けないコディアックを助け、大いに興奮させてくれたブリジット・ロ−ガン。その生い立ちを描く。

読んでみて、ちょっとブリジットの輪郭が思っていた感じとは違っていたかな。
友人というキーワードに縛られている面と、やっぱり悪いやつは裁きを受けるべき的、勧善懲悪な感じがちょっとやだった。

というかそこまでの話の流れ方が嫌だったのかも。
なんか、絶対大丈夫なんだ、っていう感じが。。
本当はもっと泥臭いんじゃないかな。
でも、そんなこといっていたらアクション系の小説は成り立たないか。

「奪回者」「暗殺者」も読まなきゃ。

2005年11月23日水曜日

象(かたど)られた力

飛 浩隆(ハヤカワ文庫JR、2004/9)

SFが読みたい2005「ベストSF2004」国内篇第1位になった作品。
短編4作品からなる本書は、1985-1992年までの作品が収録されている。
筆者は「ポリフォニック・イリュージョン」で第1回三省堂SFストーリーコンテストに入選、ASFマガジン1983年9月号発表の「異本:猿の手」で本格デビューを果たす。
以後、「象られた力」ほか、斬新なアイデアと端正な筆致による中短篇を同誌に発表するが、1992年の「デュオ」を最後に沈黙。
2002年、10年ぶりの著作にして初の長篇「グラン・ヴァカンス廃園の天使1」(ハヤカワSFシリーズJコレクションが「ベストSF2002」国内篇第2位を獲得している。

「棚ぼたSF作家」飛 浩隆のweb録  http://d.hatena.ne.jp/TOBI/

収録作品
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デュオ
SFマガジン1992,10月号、初出。
天才ピアニストをめぐる音楽SF。
語り手の回想というかたちで物語は進む。

呪界のほとり
SFマガジン1985,11月号、初出。
呪界と呼ばれる世界からふとしたはずみで別の世界にとばされてしまう万丈と竜。
助けてくれた老人は、その世界でたった一人の住人。

夜と泥の
SFマガジン1987,4月号、初出。
テラフォーミング(地球化)した惑星をリースするリットン&ステインズビー協会から買い取った惑星で起こる奇妙な現象。

象られた力
SFマガジン1988,9-10月号、初出。
謎の消滅を遂げた惑星「百合洋(ユリウミ)」で使われていた図形言語を解析する鍵となる「見えない図形」を探すことを依頼される主人公・クドウ圓(ヒトミ)。
テーマは「もの」と「かたち」と「ちから」。

2005年11月11日金曜日

ベルカ、吠えないのか?

古川 日出男(文藝春秋、2005,4)

古川 日出男、9作目にあたる本作品は書き下ろし。
犬の生涯や運命を通した20世紀の歴史を作者本人が語っている。

1943年・アリューシャン列島。
アッツ島の守備隊が全滅した日本軍は、キスカ島からの全軍撤退を敢行。
島には「北」「勇」「勝」「エクスプロージョン」の4頭の軍用犬だけが残された。そしてそれはイヌによる新しい歴史の始まりだった——。(文藝春秋)
作者曰く、小説はこの世の中と格闘するための実戦的なツール、武器であり、小説がただの小説で終わることを否定しはじめている、ということらしい。

確かに特徴的な文体にも磨きがかかっている。

2005年11月5日土曜日

万物理論

グレッグ・イーガン、山岸 真/訳(創元SF文庫、2004,10)

SFが読みたい2005「ベストSF2004」海外篇第1位になった作品。

物語の舞台は、2055年遺伝子工学を珊瑚礁に応用したという地球でたったひとつの無政府の島「ステイトレス」で行なわれる「アインシュタイン没後100周年記念」の国際理論物理学会議。
完成寸前の「万物理論(すべての自然法則を包み込む単一の理論)」を発表する3人の内の1人、20代のノーベル賞受賞者ヴァイオレット・モサラを中心に、この万物理論の番組を製作することになったが、様々な困難が。
主人公はバイオ系を専門とする映像ジャーナリスト、アンドルー・ワース。
自らの体内にメモリを埋め込み、視神経にチップを直結して目で見たままの映像を記録したり、ホルモンを制御して睡眠のコントロールをしたりと、SF的なネタには事欠かないが、話の幅が広く長い。

2005年10月22日土曜日

くらやみの速さはどれくらい

エリザベス・ムーン、小尾芙佐/訳(早川書房、2004.10.31)

21世紀版「アルジャーノンに花束を」と評されネビュラ賞を受賞した作品。
また、SFが読みたい2005「ベストSF2004」でも7位。
医学の進歩によって、自閉症は幼児期に治療すれば治すことが出来るようになった近未来。
製薬会社のセクションA(自閉症者部門)で働く35才のルウ・アレンデイルは、最後の世代の自閉症者。
物語は、パターン認識と解析に優れた能力を発揮する自閉症者・ルウの視点で「正常(ノーマル)な人」にとっては当たり前の人の心と社会を描写しながら進む。

新任の上司・ジーン・クレンショウはセクションAの経費削減を目的に、動物実験で効果が確認された新しい自閉症治療の実験台になるよう迫る。

治療というと「正常な人」を標準として、正常ではない人を「標準に治す」ことが当たり前に語られる。
著者の謝辞にも名前が出ていたオリバー・サックスの書でも先天性の全盲者に後から視力を与えても、はじめから視力がある「正常な人」とは同じにはならないなど、興味深い臨床例を読むことが出来る。

自分でも時々ハッとするが、必要な援助をするつもりで接していても、つい可哀想にと哀れんだり、無意味な優越感を持っていたりしてないだろうか。

ルウの目を通した現実社会の描写はいちいち思い当たることがあり面白い。
物語は、ハッピーエンドではあるものの素直には受け取ることが出来ないエンディング。

タイトルは、著者の自閉症の息子質問がヒントだったそう。
息子「光の速さが、秒速186,000マイルだとしたら、暗闇の速さはどれくらいなの?」
著者「暗闇に速さはないのよ」
息子「暗闇の方が速いはずだよ。だって最初に暗闇があるんだから」

2005年10月8日土曜日

ブルースに囚われて—アメリカのルーツ音楽を探る

飯野 友幸、高橋 誠、保坂 昌光、舌津 智之、椿 清文、畑中 佳樹、大和田 俊之、榎本 正嗣(信山社、2002/05)

ブルースの「発見」から百年。これまで音楽以外の観点からまとまって研究されることのなかったブルースについて、8人の書き手たちが文化研究的な方法と伝統的な方法から語り、新たな世紀に解き放とうとする試み。
思ったより幅広く内容も深く読み切れなかった。
再度読み直すかな。

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1 文化・歴史・社会(ブルースとヴードゥーの悪魔
ルーツ志向と音楽産業
反復するサウンド、複製するブルース—スミス、フェイヒィ、ライヒ
ファルセット・モダニズム—ブルースとアイデンティティの撹乱)
2 言語・文学(黒人音楽と言語リズム
アメリカ文学とブルース—ラルフ・エリソンの世界
ブルースの歌詞—その主題と特徴
黒いオルフェ?—抒情詩としてのブルースについてのいくつかの考察)

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
--ここから
飯野 友幸:上智大学教授
畑中 佳樹:東京学芸大学助教授
保坂 昌光:法政大学兼任講師
大和田 俊之:日本学術振興会特別研究員(研究機関:慶応義塾大学)
舌津 智之:東京学芸大学助教授
榎本 正嗣:玉川大学助教授
椿 清文:津田塾大学教授
高橋 誠:高田英語学園園長、日本基督会川崎教会副牧師、八王子市立看護専門学校講
(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
--ここまで

2005年9月22日木曜日

東京アウトサイダーズ — 東京アンダーワールド2

ロバート・ホワイティング、松井みどり/訳(角川書店、2002/04/18)

危ない本『東京アンダーワールド』の作者、R.ホワイティングが書く待望の続編、アウトローたちをみる観察眼においてはこの人の右に出るものはないのでは。
みんなに読んでもらいたい一冊。
特に、自民党大勝という結果をもたらした検挙の後には。

詳しい内容については本書を読んでください。

...
pixel 目次
第1章 金儲けの達人
第2章 GI—氷河期、反米旋風
第3章 売春婦
第4章 詐欺師
第5章 ホステス
第6章 暴力団
第7章 いいガイジン

2005年9月10日土曜日

ジャンク・ファンク・パンク

野田 努(河出書房新社、2003/10/22)

本書は筆者が過去の雑誌、CDの解説などに書いた文章をまとめたもの。
第一章がレイヴ・カルチャー、第二章がデトロイト・テクノ周辺、
第三章がヒップ・ホップ周辺という構成。

ファンクという言葉につられて読み出した。
はっきり言ってレイブもテクノもヒップホップに付いてほとんどなにも知らないので最初は何の話だかちっとも分からず。。
勢いで読み進むうちに、第二章デトロイト・テクノ編。
アンダーグラウンド・レジスタンスのアルバム「インターステラー・フージティブス」が縁で始まるマッド・マイクの案内で見るデトロイト・テクノ。
この話は実に面白かった、モータウンの地、デトロイト。
デトロイト・テクノはP・ファンクやスティービーワンダーと同じメッセージを持っているという。
アズ・ワンことカーク・ディジョージオは、もしダンスカルチャーが二つの方向性に分かれているのなら、マーケット的に金になるロック化するダンスミュージックとマーケット的には期待できないアンダーグラウンドなジャズ/ソウルへと向かう方向だろう。
デトロイト・テクノは、後者の方向で音楽を感情表現とし常にソウルの問題を念頭に置いている。別名テクノ・ソウルとも呼ばれているそうな。
また、デリック・メイがヨーロッパ調の4っ打ちのテクノを聞いていたとき、その単調さに憤りを覚えながら「テクノっていうのはソウルなんだよ!」と怒鳴ったことがあるという逸話も印象的だった。

サン・ラやP・ファンクから続く、コズミック・テクノの解説で、「それは宇宙へのロマンスなどではない。あらゆる歴史的厳粛性から逃れた場所への強烈な夢想が彼らを宇宙に向かわせる」と。
そして、デトロイトの路上に描かれた「革命とは希望なき者の希望である」という痛さが音を作っている。

2005年9月7日水曜日

ロック・ミュージックの歴史〈上〉〈下〉スタイル&アーティスト

キャサリン チャールトン、佐藤 実/翻訳(音楽之友社 上巻、1996/10 下巻、1997/02)

内容(「BOOK」データベースより)
本書はアメリカの大学で実際に使用されているロック史のテキストである。ロックの誕生から現在までの歴史をたどりながら、さまざまなスタイル上の変遷や影響関係などを克明にあとづけ、代表的なアーティストを紹介。
随所に効果的なリスニング・ガイドを配置し、用語解説、索引なども完備するなど、テキストならではの細かい配慮がなされ、ロック・ミュージックの全体像を把握するには、これさえあれば充分、という内容である。

上巻では、ロック・ミュージックのルーツからカントリー・ロックのリヴァイヴァルまでをあつかう。下巻は70年代から、現在のモダン・メインストリーム・ロックまで。
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その通りでした。

2005年9月2日金曜日

沈黙

古川 日出男(幻冬舎、1999/07)

「獰猛な舌」を具えて固有の顔をもたない、大瀧鹿爾(おおたき ろくじ)。
第二次大戦敗戦直後のビルマを逃亡中、日本人を捜すうちに、かつての上官・山室龍三郎大佐にあう。
山室の「おれは悪そのものであり、その悪を、生きとし生けるものに自覚させる」ということばに、鹿爾は心を乱す。
第一部、ビルマを逃走する大瀧鹿爾の書き出しがとても良く、一気に引き込まれた。
「獰猛な舌」とは「悪」とは。。

第二部となり舞台は現在の東京、「アビシニアン」で保健所を襲った秋山薫子がここからの主役。
ふとした切っ掛けで祖母・下岡三稜の姉・大瀧靜と知り合い、鹿爾の長男・修一郎が残した11冊のノート「音楽の死」の解読を進めるうち薫子は自分が、鹿爾、修一郎と同じ「獰猛な舌」を持つ家系と知る。

悪に対抗するものとして「音楽」がキーとなっている。
第一部では、山室大佐のことばに心を乱した鹿爾は、三つ目の村で聴いたモン族の若者が蜜柑の葉で奏でる「森の官能をそのまま響きに変えたような、豊饒さを具えた音楽の旋律」すら忘れてしまう。
強い悪にふれ、音楽が負けてしまったのか。

第二部以降は、失聴となった修一郎が残したノートから薫子はルコ(rookow)を知り追い求める。
「音楽は娯楽ではない。音楽は生存のための儀式である」とは、修一郎のメモ。

一方、小学生の時から「ぼくは闇だ」という薫子の弟・秋山燥(やける)。
人の悪意を解放する燥(やける)を近くに感じ、薫子は「純粋な悪意」を葬る。

2005年8月28日日曜日

アメリカ音楽ルーツ・ガイド(ジャンル解説&CDガイド350)

鈴木 カツ(音楽之友社、2000/07)

レコードに刻まれた歴史をひもとき、アメリカ音楽のルーツを探る趣旨の本書。
自分自身、音楽好きで様々なジャンルの音楽を聴いているが、あまりその発祥については関心がなかったが、読んでみると面白い。

本書では基本68ジャンルについて解説しているが、基本ジャンルが68もあるとは。。
内容(「MARC」データベースより)
アメリカン・ミュージックの基本68ジャンルを解説し、おすすめディスクを紹介。CDを買うとき、聴くとき、音楽雑誌を読むとき、すぐに役立つ知識が満載の「ファンのための音楽事典」。


執筆陣
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今澤 俊夫
大鷹 俊一
小尾 隆
木村 ユタカ
小出 斉
佐々木 健一
鈴木 カツ
鈴木 啓志
田中 凛太郎
津田 和久
土橋 一夫
ハスキー 中川
中山 義雄
文屋 章
山崎 直也

2005年8月27日土曜日

gift

古川 日出男(集英社、2004/10)

「小説すばる」2001年6月号から2003年2月号にかけて不定期連載されたシリーズ「かわいい壊れた神」からの16篇に書き下ろし3篇を加えた19編からなる掌編集。
それぞれのタイプの違う作品で独特の世界に引き込まれる。
時々取り出して読みたい本。

収録作品
ラブ1からラブ3
あたしはあたしの映像のなかににいる
静かな歌
オトヤ君
夏が、空に、泳いで
台場国、建つ
低い世界
ショッパーズあるいはホッパーズあるいは君のレプリカ
小さな光の場所
鳥男の恐怖
光の速度で祈っている
アルパカ計画

アンケート
ベイビー・バスト、ベイビー・ブーム悪いシミュレーション
天使編
さよなら神様
ぼくは音楽を聴きながら死ぬ
生春巻き占い

2005年8月26日金曜日

マンガ嫌韓流

山野 車輪(晋遊舎、2005/07)

本書カバー裏にある「マスコミが隠しているもう一つの韓流がある」の通り、アマゾン、紀伊国屋書店などでベスト1にもかかわらず、マスコミに黙殺されているという事実に興味を持ち読んだ。

漫画というよりは読み物として。
日韓共催ワールドカップの裏側、戦後補償問題、在日韓 国・朝鮮人の来歴、日本文化を盗む韓国、反日マスコミの脅威、ハングルと韓国人、外国人参政権の問題、日韓併合の真実、日本領侵略-竹島問題、日韓友好へ の道、といったテーマを主人公の高校生・沖鮎 要らが学びながら解説する。
読むと反韓というよりは反日日本人(メディア)の存在の方が問題と分かる。

WILLの編集日誌での作者・山野氏の話「まだ漫画になっていないテーマを考えているときに、2chで盛り上がっていた反韓をテーマにしようと思った」との発言を読んだ。
元々、歴史認識ありきで書き出したのではないことについてはザンネン。
これはフィクションではすまない。既に「続編」に取りかかっているとのことだが、ヒットを狙ってテーマを見失わないことを切に願う。

それこそマスコミに足下をすくわれ折角と言うよりやっと日本人が歴史に関心を持ち出しているこの芽を摘んではイケナイ。

2005年8月25日木曜日

ボディ・アンド・ソウル

古川 日出男(双葉社、2004/08)

主人公フルカワヒデオが現存するカルチャーについて徹底的に思索し、言及することにより現代の「東京」と対話する作品。ノンフィクションの境界を破る、まったく新しいタイプの小説。(双葉社のサイトから)
たまたま主人公が「フルカワヒデオ」なので小説家「古川 日出男」をイメージしながら読んでしまうが、果たしてその時点で本書の術中にはまってしまっているのかもしれない。

冒頭、自殺してカラダからトンズラこいた「精神」を増悪する「肉体・カラダ」の僕の視点で始まる。
自分自身のカラダと精神を様々な状況に入れたり出したりしているような試行的な「ことば」で綴られている。

「偶然に意味を見てしまうタイプは見てしまうの。あ・ぶ・な・い・の。」という郡司珠子のことば通り、あえて危ない方を選ぶフルカワヒデオが気持ちいい。

2005年8月18日木曜日

アビシニアン(abyssinian)

古川 日出男(幻冬舎、2000/7/10)

「文字」という有限で制約の多いコミュニケーションの手段を捨て、リアルな感覚を研ぎ澄ますことによって得られる本当の理解をもとめる、ストイックな話。

出版社/著者からの内容紹介
「あなたには痛みがある」そう言った彼女は字が読めなかった。ぼくは激痛の発作におびえながらも急いで書かなければならない。僕と彼女の愛についての文章を。気高く美しい者たちの恋愛小説。
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古川日出男の綴る文章は面白い。
昔自分の中に在って今はどこかに仕舞い込んでしまった心搏が聞こえるような気がする。


あらすじ
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他者との協調ができないその小学生は、技術としての「ことば」を書物に求めるが、不足を感じ、ことばを超えた感覚による伝達を実践した。
そしてそれを猫から学んだ。
その少女は、親の都合で手放す事になった、元飼い猫「アビシニアン」との再会のため中学の卒業式後、過去と過去の自分を捨て公園に向かう。
4年間「アビシニアン」と一緒に猫として生きた少女は、文字を葬り去り、文盲となって森羅万象とともに新生を果たす。
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顔写真のスクラップで膨れあがったシステム手帳にシナリオを書き込む大学生。
原因不明の発作を持つこの大学生は、ダイニング・バー「猫舌」で「顔のない少年」の物語をエンマに語る。
エンマに「シバ」と名付けられた大学生は、物語を語ることによって二人の間でストーリーが養われ境界がなくなっていく、と感じる。
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「猫舌」のオーナー西マユコは、我が子の墓の前で蓮華を手に佇む文字を捨てた少女に出会う。
マユコは、安らぎを与えてくれる少女にエンマと名付ける。
家族を失ったマユコと全てを捨てた少女は、家族となり姉妹としての生活が始まる。
恐怖のシンボルが日付だったマユコは、エンマと暮らすことで文字を忘れるように日にちを忘れた。

2005年8月12日金曜日

サウンドトラック

古川 日出男(集英社、2003.9.10)

小笠原諸島の無人島に漂着した2人の子供。海難事故で父親を亡くした6才の「トウタ」と母親の無理心中から運良く助かった4才半の「ヒツジコ」。
漂着から2年強が過ぎた1997年、東京都の職員に発見され父島での生活がはじまる。無人島で確立した自我を秘めながら。
出版社/著者からの内容紹介では、
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2009年・ヒートアイランド化した東京。
神楽坂にはアザーンが流れ、西荻窪ではガイコクジン排斥の嵐が吹き荒れていた。
これは真実か夢か。
熱帯都市・東京をサバイブする若者を活写する長編。
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とあるが、3人の主役を取り囲む人間模様が主立ったもの、という印象。
確かに「”小説すばる”掲載の3作品をもとに構成した前半部分と、書き下ろしの後半をまとめて単行本化」というように合体作であるためか、それぞれのエピソードがもっとディテールがあっても良いのでは、とやや欲求不満な箇所もある。

著者の古川 日出男氏が「ジャンルをあえて言えば、疾走小説です」「平面的なひろがりだけでなく、東京の縦軸も描きたかった」と言うように、後半に行くほど「疾走」感が加速し、路地裏(裏世界)、空(鴉)、地下(傾斜人)と縦横無尽に展開する。

序盤で描かれるトウタとヒツジコの自我の確立期に、小学4年の始業式に島に赴任してきた教師・佐戸川俊一は「オブセッションと囁く」。

この後、キーワードとなる「オブセッション(Obsession)」は「妄想、脅迫観念」を意味する。古くは悪魔や悪霊による「憑依」の意味もあるが、現 代では「時に不合理とわかっていながら、ある考えや感情がしつこく浮かんできたり、不安なほど気掛かりになること」という精神医学・心理学的な精神の乱れ を指す言葉だが、物語全体に流れる力を良く表している。

繁殖しすぎた羊を殺さなくてはならない
純粋な日本人でなくてはならない
世の中の「常識」といわれる事は「オブセッション」。。。

ラストは「いっしょに東京を奪還するかぁ、ヒツジコ」と携帯電話越しに話し終わる。
東京の「オブセッション」を解放するという事かな。


主な登場人物
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トウタ
音楽を持たない少年
- 海の老人
- リリリカルド
- ピアス

ヒツジコ
無人島で地震の時に感じた「重力から放たれて自らの輪郭すら変化する、その状態の再現を求めて」ヒツジコは自分の体内に地震を起こすべく踊り続けたが、遠泳大会での事故以来、対象が外に向けられる。
- 中山 優高(遅刻ガール・ユーコ)
- 湊 冬子(寮生かつらガール・フユリン)
- 聖 バビロニア(全身全霊ガール・カナ)

レニ
新宿区新小川町・俗称レバノン生まれ、鷹匠の末裔レニ。
性別を自分の意志で場所ごとに選択する。生存戦略としての多性。
家族のカラス・クロイとともに傾斜人に映像銃で戦いを挑む。
- 居貫 正道(ポルノグラファー)

2005年8月4日木曜日

魔女は夜ささやく〈上〉〈下〉

ロバート・R・マキャモン、二宮 磬/翻訳(株式会社 文藝春秋、2003.8.30)

17世紀も末の1699年、新大陸(アメリカ)南部の町ファウント・ロイヤルで魔女が囚われたとの報を受け、魔女裁判を行なうべくやってきた判事アイザック・ウッドワードとその書記マシュー・コーベット。
証人から話を聞くほど“魔女”レイチェル・ハワースの有罪が確定してゆく中、マシューだけは彼女の無実を確信し、証拠探しに奔走する。

原題は「Speaks the Nightbird」。
物語の中でウッドワードがマシューに「夜の鳥」を引き合いに出して諭すところがあり、以後たびたび登場する。

登場人物
マシュー・コーベット:書記
アイザック・ウッドワード:判事
レイチェル・ハワース:魔女として囚われた女
ロバート・ビドウェル:ファウント・ロイヤルの創設者
アラン・ジョンストン:学校長
ベンジャミン・シールズ:医師
ニコラス・ペイン:民兵隊隊長
エマ・ネトルズ:ビドウェル邸の家政婦
グイネット・リンチ:鼠捕り
エクソダス・エルサレム:流浪の説教師

2005年7月28日木曜日

鏡の国のアリス

広瀬 正(集英社文庫、1982.5.25)

左右が逆の世界に迷い込んだ主人公・木崎浩一の物語。
ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」の引用から始まる。
広瀬正の小説は、いつもサイドストーリーが充実している。
今回は、鏡の中の世界と現実世界はどう違うのかを、授業形式で解説したり、建造物がいかに完全な対称物にならないように注意しているかを、歴史的な建物を引き合いに出して説明するなど手抜きはない。
ルイス・キャロルが「鏡の国のアリス」を書く切っ掛けになった事などもしっかり盛り込まれている。

そういえば、ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」は1871年に書かれたとの事、この前に読んだ「半身」の舞台と丁度重なり何とも不思議な気分。
さらに、当時四次元という観念が数学者の間でも話題となり、早速心霊研究者達は「心霊の居る世界は四次元の世界だ」などと言っていた、ともあり尚更。

他に、短編3作を収録。
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1. フォボスとディモス
火星から二人の尾崎健一が帰還する。

2. 遊覧バスは何を見た
1925年12月20日、バスに酔った妻を介護してもらった事から、堀川隆造と佐山達吉の縁が始まる。

3. おねえさんはあそこに
宇宙人の子供を育て、引き取りに来てもらうという竹取物語のような話し。

2005年7月26日火曜日

半身 (Affinity)

サラ・ウォーターズ、中村 有希/翻訳(創元推理文庫、2003.5.23)

「このミス」2004版、1位の当作品は、サラ・ウォーターズ (Sarah Waters)の長編第2作目。
19世紀のロンドンに実在したミルバンク監獄を舞台に日記形式でつづる物語。
主人公のマーガレット・プライアは、1874年9月24日慰問に訪れた監獄で出会った女囚、シライナ・ドーズに惹かれていく。
ドーズは、1873年8月3日に行なった交霊会での事故により投獄された霊媒だった。
物語の舞台であるビクトリア時代にほとんど興味がない ので、読み切ることが出来るか不安を感じたが、思った通り中々ページが進まなかった。
しかも全5部構成中、第4部までは歴史小説のような流れで、何処でミステリーになるのかな、などと思いながら淡々と読み進めるが、最後になって、おっ、そういう事ね。と、一気に解決。
この手のものを読むには、まだまだかなと思う次第。

原題の「Affinity」はこの物語を端的に著している良いタイトルと思う。
* 親縁とか引きつける力とか類似とか近化とか。

2005年7月21日木曜日

葉桜の季節に君を想うということ

歌野 晶午(文藝春秋 本格ミステリ・マスターズ、2003.3.30)

話しは、高校に通う舎弟のキヨシに頼まれ、霊感商法事件に巻き込まれた元探偵の「何でもやってやろう屋」成瀬将虎の物語。
本編と移行して進む主人公の過去の物語がサイドストーリーとして良い伏線となっている。
この物語は小説ならではのトリックで成っており、映像化はできないだろうな。
主な登場人物は、成瀬将虎、キヨシ、久高愛子、久高隆一郎、古屋節子、安藤士郎、将虎の妹・綾乃など。

この作品を読む切っ掛けは、2004年版「このミス」1位、2003文春ベスト10で2位を獲得したということ。
従って、作者の事も知らなければ、ミステリー云々という思いこみもなく読んだが、楽しめた。
歌野晶午の他の作品も読んでみたい。

2005年7月16日土曜日

マイナス・ゼロ

広瀬 正(河出書房新社、1977.3.10)

昭和20年5月25日夜の空襲。
中学2年の浜田俊夫は、隣家の「伊沢先生」が倒れているところを発見し助けようとするが「18年後にここに来てほしい」と言い残して命を落とす。
18年後の昭和38年。浜田俊夫は元の隣家に住む「及川」を訪ねるが、そこで出会ったのは。空襲の最中に行方不明になった時のままの伊沢先生の娘・啓子だった。

空襲の夜「伊沢先生」がタイムマシンを使って啓子を18年後に送り込んだことを知った俊夫は、自らタイムマシンに乗り込み、「伊沢先生」が住み始める1年前の昭和9年へ向かう。ところが、着いた時代は昭和7年。
元の時代に戻るつもりがタイムマシンにおいて行かれてしまう。
取り残された浜田俊夫はその時代で生活を始める。

浜田俊夫、伊沢啓子、小田切美子(及川美子)、及川伝蔵が入り乱れて話が進むが、伊沢先生は?

広瀬正の長編第一作作品。
解説によると「宇宙塵」に長期にわたり連載され大変評判になったにも関わらず、出版社が決まらずなかなか単行本化されなかったらしい。
SFというのがまだ受け入れられなかったのだが、単行本化されると直木賞候補にまで挙がった。

2005年7月13日水曜日

占星師アフサンの遠見鏡

ロバート・J・ソウヤー、内田 昌之(翻訳)(ハヤカワ文庫SF、1994)

主人公のアフサンは、知性のある恐竜、キンタグリオ一族。
宮廷に仕える占星師タク=サリ−ドのもとで見習中の弟子として勉学にはげむ少年恐竜。

神を絶対的なものと考え、森羅万象を非科学的に解釈する師サリードの教えに不満を感じてもいたアフサンは、ワブ=ノヴァトの発明した遠見鏡を使って今まで誰も考えた事のない事実を知り、それを伝える役目を負う。
真実を求める少年恐竜の成長を描く冒険SF。
ソウヤーの小説では、いつも思いもよらない展開に驚かされるが、今回の恐竜ガリレオ物語もとても盛りだくさんな内容で楽しめる。

縄張り意識とか本能である殺戮の衝動など恐竜という代弁者を使ってはいるものの、そっくり人間に当てはまるところが妙に腑に落ちる。
結局人間も野生動物なのね、と。

2005年7月9日土曜日

闇の中から来た女

ダシール・ハメット、船戸与一(訳)(集英社、1991/4/25)

作者は、タフで非情な主人公を描く事でハードボイルド小説を確立した、ダシール・ハメット。
闇の中から来た女は、1933年4月8日、15日、22日の3回にわたって「リバティ」誌に連載された。
大地主、ロブソンが君臨する司法権も行政権も私物化された田舎町マイル・ヴァレー。
スイスを訪れたロブソンは高慢で自惚れが強い歌手のルイーズ・フィッシャーを、金にものをいわせてこの片田舎に連れてくるが、ロブソンに愛想を尽かし逃げ出してしまう。

しかし、足首を捻って転んでしまい膝にけがを負ったルイーズは近くの一軒家に助けを求め、3週間前に出所したばかりのブラジルと出会う。

2005年7月7日木曜日

T型フォード殺人事件

広瀬 正(新鋭推理作家書き下ろしシリーズ、講談社、1972/6/20)

「T型フォード殺人事件」は広瀬正の遺作となる。

老社長宅に集まった七人の男女に、日本に5台しかない1924年製T型フォ−ドが披露される。
メンバーは、主人の泉大三、娘のユカリ、娘のフィアンセのロバート・ジョーダン、
小説家の白瀨、大学助教授の早乙女寛、医師の疋田善三、自動車修理工の蘇我二郎。

このT型フォードは、医師、疋田善三の祖父が大正14年購入したものを、泉大三が譲り受けたものだが、46年前のある事件を切っ掛けに死蔵されていた。

その事件とは、鍵の掛かったT型フォードの車内に死体が置かれていたという密室殺人事件だった。
台風の夜、密室殺人事件の真相を探るゲ−ムが始まる。

2005年7月5日火曜日

タイムマシンのつくり方

広瀬 正(集英社文庫、1982/7/25)

集英社文庫の「広瀬正・小説全集・6、タイムマシンのつくり方」には、昭和36年から40年あたりに書かれたSF短編のほとんど(25タイトル)が納められている。

・ザ・タイムマシン
ムテン博士のタイムマシン解説
・Once Upon A Time Machine
親殺しのパラドックスを扱った小説。歴史の自己補修作用を持ち込んで解決。
・化石の街
時間経過が極端に遅い街に迷い込んだ主人公を描いた小説
・計画
戦争にタイムマシンを使用して勝利を収めた国の話し。ムテン博士がタイムマシンに乗り込み実験を行う。過去にさかのぼって一つ石を拾って戻ってみると。バタフライ効果ネタ。
・オン・ザ・ダブル
人間の毎日の生活周期を少しずつ早めていけばそれに比例して体のリズムも早くなるのでは。被験者を一日に五百分の一ずつ時間が早くなる部屋に1年間閉じこめて実験を行なう
・異聞風来山人
平賀源内はタイムマシンを持っていた。
・敵艦見ユ
オハラ航空研究所で完成した航時機T1号の第3回非公式実験で対馬海戦のあった1905年5月27日に遡る。
・二重人格
駅の地下道で人波に押され気を失った佃正博、なぜか猪俣銀二という男の記憶が現れる。多元宇宙SF。
・記憶喪失薬
一時間前からの記憶を消す薬をもったセールスマンがやってくる。
試供品の三分用を試して、購入するがすぐに今の薬はインチキだと老人が現れる。
・あるスキャンダル
ロボットを売っている仕事熱心な山川氏。一日の終わりには四角い固まりになる。
・鷹の子
亭主を亡くし、息子までなくした良家の夫人。そこへ現れた左官屋が「息子さんが亡くなった日時にうちの子供は生まれました」と養育費の援助を申し入れる。
・もの
広瀬正のSF処女作。
下駄を見た未来人達が考える使い方とは。
・鏡
鏡に声を取られてしまった男の話。
・UMAKUITTARAONAGUSAMI
筒井康隆の解説から「フレドリック・ブラウンの影響があきらかにうかがえる時間テーマのSF落語」
・発作
1分後の世界から自分がやってくる。「ゆっくり説明しているひまはない…」
・おうむ
博士の発案した新型の発声装置。テストをすると、ロボットに博士の発音が悪いと指摘される。
・タイム・セッション
タイムマシンで過去のニューヨークにチャーリー・パーカーの演奏を聴きに行くが、ドルを忘れた主人公は。
・人形の家
精巧に出来たドールハウス。よく見ると…。
・星の彼方の空遠く
前人未踏と思われていた遊星に人が住んでいた。探検隊が訪れるとふたりのよく似た男が出迎える。
・タイムマシンはつきるとも
盗んだタイムマシンを使って泥棒に入る。タイムマシンに乗って逃げようとすると…。
・地球のみなさん
先生のうちに毎日色々なものを持ってきては小遣いをもらってい行く少年。この日はエンバンを見たというが…。
・にくまれるやつ
悪いやつには後ろめたい事が多く敵が多い。
・みんなで知ろう
未来から歴史を振り返ってみるというアイデアのSF。
・タイムメール
未来から自分の著作が掲載された雑誌が送られてくる。
・付録「時の門」を開く
ハインラインの「時の門」のアナを捜す解説もの。

2005年7月1日金曜日

さよならダイノサウルス(END OF ANERA)

ロバート・J・ソウヤー(著)、内田 昌之(翻訳)(ハヤカワ文庫SF)

恐竜絶滅の秘密を探るため、2人の古生物学者、ブランドン・サッカレーとクリックスことマイルズ・ジョーダンがタイムマシンで6500万年前の白亜紀末期に旅立つ。
と、ここまでは何となく先が読めそうな物語かな、と油断して読んでいたら全然違いました。
恐竜があんなに巨大化できた理由と火星が死の惑星になった理由が「リンク」してくるところあたり、もう恐竜は切っ掛けでしかなくなってきます。

文中で、レイ・ブラッドベリの短編「雷のような音」の説明をするところがあり、丁度バタフライエフェクトが気になっていたのでちょっとスッキリ。

2005年6月29日水曜日

エロス-もう一つの過去-

広瀬 正(集英社文庫)

もしもあのとき何々だったら、というテーマで書かれた時間ものSF。

歌手生活37周年記念リサイタルをひかえた大女性歌手、橘百合子と電波探知機を発明した片桐慎一博士の<現在>と37年前の<過去>。
もしかしたらあったかもしれない<もう一つの過去>と交互に物語が進む。
昔、ハインラインの「時の門」の解説書「時の門を開く」を読んだのが切っ掛けで広瀬正を読み始めた。
なぜかエロスについてはあまり印象に残ってなかったが、単純にSFと言うよりは時代小説のようなところが、自分にとってはあまり引っかからなかったのか、と感じた。

なにせ当時コテコテのSFに興味があったので、昭和10年代の東京の様子を詳細に描かれても読み飛ばしたんだろうなぁ。
しかし、今回読み直してみたら詳細な「時代のディテール」がこの作品のポイントなんだと今頃思う。
ちっとは本読んでいる成果が出てきたのかな。

エロスというタイトルの設定は音楽畑の著者らしい。

2005年6月27日月曜日

ダーウィンの剃刀

ダン・シモンズ(著)嶋田 洋一、渡辺 庸子(翻訳)(Hayakawa novels)

主人公のダーウィン・マイナーは、ローレンスとトルーディー夫妻だけの小さな保険調査会社で事故復元調査員をしている。ある日愛車NSXでフリーウエイを走行中、スモークガラスのベンツE340に銃撃されたことから命を狙われている事を知る。
この裏には、カリフォルニア各地の路上や工事現場で頻発する保険金搾取を狙う巨大組織の存在があった。
カルフォルニア州検事局主任女性捜査官シドは、その組織の解体するべくダーウィンに協力を求める。

カーチェイスからはじまり、グライダー対ヘリコプターの空中戦、最後はスナイパー同士の心理戦へと続くサスペンス・アクション。読み進むにつれ主人公ダーウィンの経歴が明らかになり期待が高まる。
サイドストーリーに登場する逸話がなかなかおもしろく、映像化したら結構グロだろうなと思うところでも重くならずに読み進む事ができる。

タイトル「ダーウィンの剃刀」は14世紀の論理学者オッカムのウィリアムによるものとされる原理「オッカムの剃刀」のパロディー。この原理は「むやみに実体の数を増やしてはならない。」 という事らしい。
因みに、文中では
「通常、他の全ての条件が同じなら、もっとも単純な解決法が正しい解決法である。」オッカム
「通常、他の全ての条件が同じなら、もっとも単純な解決法は愚かな解決法である。」ダーウィン

登場人物
ダーウィン・マイナー 事故復元調査員
ローレンス・スチュワート 保険調査会社の経営者
トルーディ ローレンスの妻
シド・オルスン 州検事局の主任捜査員

2005年6月20日月曜日

エイリアンvsプレデター

マーク・セラシーニ(著)鎌田 三平(訳)(竹書房文庫)

人工衛星が、南極大陸で異常な熱の放射を観測。
解析の結果、氷の下600mに超古代の巨大ピラミッドが眠っていることが判明した。

億万長者の企業経営家、チャールズ・ウェイランドは、歴史に名前を残す「世紀の発見」に向け世界中の科学者・考古学者からなる調査隊を組織し南極大陸に向かう。
プレデターがエイリアンを狩るという設定だが、どうして?、という疑問を持たなければそれなりに楽しめる。
特に小説では気持ちの悪いものを見なくてもいいというメリットは大きい。

また、エイリアンシリーズを見ていれば分かるという仕掛けも随所にあってファンにはうれしい。
例えば南極の古代遺跡調査を依頼する、ウェイランド社は、映画「エイリアン」に登場した貨物船ノストロモ号っを派遣した多国籍企業「ウェイランド=ユタニ・コーポレーションの元の名前。

最後は母船に回収されたプレデターの死体の胸を破ってエイリアンが出てくるというエンディングだが、エイリアンと何かが融合して、新しい怪物を登場させるといういつもの決まりからすると、次はまた特殊なのが出てくるのかしら、と。

登場人物---
アレクサ(レックス)・ウッズ
環境保護運動家で寒冷地探検のガイド
セバスチャン・デ・ローサ
奇抜な説を唱え、学会から追放されかけた考古学者
チャールズ・ウェイランド
億万長者の企業経営家
グレアム・ミラー
古代建造物の年代を測定する化学工学者

2005年6月18日土曜日

守護者(キーパー)

グレッグ・ルッカ(著)、古沢 嘉通(翻訳)(講談社文庫)

ボディガードのプロと脅迫者との攻防を描くグレッグ・ルッカ初の長編小説。
妊娠中絶の賛否という重たいバックグランドでおこる殺人予告。
ガールフレンドの堕胎に付き添ってウイメンズライフケアクリニックを訪れた主人公のアティカス・コディアック。
病院前では"堕胎は殺人だ"というプラカードを掲げて「声なき者の剣」のメンバーが過激に活動している。
女性医師ロメロに「私と娘を保護してもらいたい」と頼まれ引き受けたことから始まるアクション巨編。

結構弱い主人公をフォローすべく後半登場する、私立探偵、ブリジット・ローガン。
彼女がなかなか良い。
彼女が主人公の番外編にも期待。
期待大。

登場人物
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アティカス・コディアック
フェリス・ロメロ ウイメンズライフケアクリニック
ルービン
デイル
ナタリー・トレント
エリオット・トレント
シャナサン・クロウエル 声なき者の剣代表
ロサノ NYPD
スコット・ファウラー FBI
ブリジット・ローガン
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2005年6月8日水曜日

宿敵−Code Name : GENTKILL

ポール・リンゼイ(著)、笹野 洋子(翻訳)(講談社文庫)

FBI捜査官殺しと病院脅迫事件、二つの事件をマイク・デブリンが規則違反の単独捜査で追う。
このマイク・デブリン捜査官シリーズの著者、ポール リンゼイは元FBI捜査官。
前作のシリーズ第1弾「目撃−Witness To The Truth」を書いた時は現職だったらしい。

全編を通して出てくる官僚主義に対する抵抗(良い意味での)が気持ちいい。
特にビル・シャナハン特別捜査官の考えつく事は最高です。
久々に読み終えてスカッとする小説だった。

2005年5月25日水曜日

クローンの祭壇

ピーター・ゴールズワーシー(著)、佐藤 美奈子(翻訳)(文芸春秋)

人工受精研究の第一人者マーラのもとに、新興宗教の教祖が金にあかして設立した大学へのスカウト話が舞い込む。

中絶手術にあけくれる生活に辟易としていたマーラは誘いを受け入れるが。
ちょっとでも痕跡が残っていればDNAを復元してクローンを作り出してしまうというもう実現できていそうな話。
倫理心と科学に対する飽くなき探求心という対比に加えて対象がキリストともなるとさらにややこしい感情が交錯する。

最後にマーラに宿っている命はキリスト??

2005年5月21日土曜日

フェッセンデンの宇宙

エドモンド・ハミルトン(著)、中村 融(翻訳)(河出書房新社)

1937年に書かれたSFの古典。
しかしこの感覚は自分の中にずっとあるもので、創造主とかっていう存在もスッキリして良いかな。なんて思ったりして。

九編収録
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フェッセンデンの宇宙
風の子供
向こうはどんなところだい?
帰ってきた男
凶運の彗星
追放者
翼を持つ男
太陽の炎
夢見る者の世界
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2005年5月13日金曜日

半落ち

横山 秀夫(講談社)

現職警察官、梶はアルツハイマー病に苦しむ妻に請われ嘱託殺人を犯してしまう。
犯行から2日後に自首した梶は空白の2日間について何も語ろうとしない。
図書館で予約をしてこんなに時間が掛かった本はない。
映画化される本は人気が違う。

先に映画を観ていたのだが、どうもしっくりしないので原作を読もうと思った。
読んでみるとやはり映画では表現されていない事が多く原作に主題の厚みを感じた。

2005年4月22日金曜日

仮想空間計画

ジェイムズ・P・ホーガン(著)、大島 豊(翻訳)(創元SF文庫)

ホーガンの長編17作目。
極秘プロジェクトオズ計画の開発にあたる科学者ジョー・コリガンはある日、病院で目を覚ます。
テスト中の事故により記憶を失ったのだと医師アーノルドから聞かされる。
計画は途中で放棄され全てがちぐはぐな世界でバーテンとして12年を過ごす。
そこへ現れたリリィは、計画は現在も進行していて二人とも仮想空間内に閉じこめられていると言う。

仮想空間での記憶と現実の記憶が入り交じるなか、脱出の方法を探す。

2005年4月7日木曜日

ロートレック荘事件

筒井 康隆(新潮文庫)

銃声が二発! 夏の終わり、美しい洋館で惨劇が始まる。
「文学部唯野教授」が、前人未踏の言語トリックで読者に挑戦するメタ・ミステリー。
この作品は二度楽しめます。

すごく久しぶりに筒井康隆を読んだ。
一つめのトリックは読み始めてすぐに分かったのだが、二度目の楽しみがワカラナイ。。
やっぱり頭悪いのかなぁ。。。
ロートレックの絵のエピソードとかと関係あるのかな。

2005年4月5日火曜日

ねじの回転—FEBRUARY MOMENT

恩田 陸(集英社、2002/12)

時間遡航技術が開発された未来では、無秩序に過去を変えたための様々なひずみが生じていた。
この「人類の悲惨な運命を救うべく国連が歴史に介入する」という目的で歴史の記録が行われていた。
舞台は1936年2月26日の東京。二・二六事件をモチーフに歴史を修復の物語が進む。
時間をさかのぼり、過去で行ったことは未来にどう影響するか。
大昔から「あのときこうしていれば」とか考えていたので興味の尽きない話です。
物語は「人類を悲惨な運命から救うべく国連が歴史に介入する」という設定だが、この時点でうさん臭さを感じる。
登場人物も文中で語っているが、そんな技術を国がほっておく訳が無く必ず独占するだろと。。
また、栗原が語る時間遡航をして「歴史をやり直しているのではなく、これはただの歴史の続きなんだとは思わないか」というセリフには同感する。
結局何をしても規定の行動なのではないかと。

2005年4月2日土曜日

記憶汚染

林 譲治(ハヤカワ文庫JA)

2040年、ワーコンと呼ばれるウエアブルコンピュータにより個人認証が当たり前となった社会。奈良で遺跡発掘作業を行う弱小土建会社社長の北畑は、弥生時代の遺跡から謎の文字板を発見する。一方、痴呆症研究に従事する認知心理学者・秋山霧子は、人工知能の奇妙な挙動に困惑していた。
ネットワーク上に、学習機能があるコンピュータを置いておくとコンピュータ自らが必要な情報を集め擬似的に世界を構築してしまうというストーリーは、「人と記憶」ということに興味がある自分としては興味深い。
実際に体に機器を装着して感覚神経までコンピュータの影響下に置くことで現実と仮想の境界が無くなってしまうような気がする。そのときの自己の存在というのは何を意味するのか。

2005年3月17日木曜日

剣客商売 「ないしょないしょ」

池波 正太郎(新潮文庫)

新発田のお福を巡る「剣客商売シリーズ」のサイドストーリー。
お福が関わった神谷弥十郎、三浦平四郎、五平を松永市九郎に斬殺されたお福の敵討ちを小兵衛が助ける。
36才で生涯を閉じるお福の物語。
なんか、妙にもの悲しいと思うのはシリーズをずっと読んできたからか。
これでほぼ完読。
やはり最初の頃の躍動感が一番読んでいて気持ちよかったな。
後半は池波そのもののようで痛々しく思うところが多々あったように思う。
まぁ、大治郎と三冬が結婚する前の物語を読めば良いのだろうが、なぜか浸みてしまうのが、池波の良いところか。
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蜩(ひぐらし)
江戸の空
2年後
秋山小兵衛
碁盤の糸
倉田屋半七
殺刀
二十歳の春
黒い蝶
谷中・蛍沢
青い眉
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2005年3月9日水曜日

剣客商売 「浮沈」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ16作目
剣客商売の特別長編

この物語では、小兵衛は66才、本編はすでに終わりをつげ、75才の小兵衛まで書かれている。
物語中、人手が足りないという話になるが、大治郎、三冬はあまり登場せず説明も特にないのが寂しい。一方、杉原秀と又六が夫婦になる。
小兵衛が40才の時の回想から始まる。
当時の門人・滝久蔵の仇討ちの助太刀をする小兵衛、敵は木村平八郎、その助太刀・山崎勘介との決闘、26年を経てこの時関係していたものたちが関わり合う。
他に、小兵衛が四谷道場時代に金を借りた、金貸し・平松多四郎とその息・伊太郎、小兵衛に敗れ恨みを抱、浪人・伊丹又十郎。

目次:「深川十万坪」「暗夜襲撃」「浪人・伊丹又十郎」「霜夜の雨」「首」「霞の剣」

2005年3月8日火曜日

ラピスラズリ

山尾 悠子(国書刊行会)

「画題をお知りになりたくはありませんか」という読み出しに惹かれて読み始めてみたものの、最後までよく分からず終了。三枚の版画を巡るエピソード。なのかな。

何の話だったのかも、ピンと来ていない始末。

「やっぱり頭悪いのかな」と想いながらやっと読んだという感じでした。
ごめんなさい。

装幀は綺麗です。
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銅版
閑日
篭の秋
トビアス
青金石
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2005年2月27日日曜日

剣客商売「二十番斬り」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ15作目
小兵衛を通して池波自身の「老い」に対する想いが現れているような。

「おたま」
白猫・お玉があるじを助けるために小兵衛を呼びにくる。
そこには四十年前に辻平右衛門道場で仁王と呼ばれた、夏目八十郎が縛り付けられていた。
「特別長編・二十番斬り」
皆川石見守の世継ぎ騒動に巻き込まれる小兵衛。
田沼意次の長男・田沼山城守意知が江戸城中において佐野善左衛門に斬る付けられ死に至るといった、田沼意次を巡る政治模様も交え総力戦。
杉原秀、横山正元、弥七、傘徳、又六、千駄ヶ谷の松崎助右衛門

小兵衛が明け方目眩に襲われるところから始まる。
小川宗鉄に見てもらうと「六十六才で、ようやく老人の躰に向かいつつある印を見た...」といわれる。
その日の昼近く、隠宅の物置に隠れた賊を追って侍がとを蹴破ろうとしている。小兵衛が追い払い賊を確かめると、太ももを切られた門人・井関助太郎と幼い子供だった。
目次:「目眩の日」「皆川石見守屋敷」「誘拐」「その前夜」「流星」「卯の花腐し」

2005年2月20日日曜日

剣客商売「暗殺者」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ14作目
特別長編・暗殺者田沼意次暗殺を巡る長編。

松平伊勢守は田沼意次に御目付衆を罷免された恨みを晴らすため、年に一度、私仕事で出かける墓参の日に討ち取ろうと計画する。
目黒不動・門前の「山の井」で萱野の亀右衛門と密談する波川周蔵、五十両で仕掛けを頼まれている。その帰り道、波川周蔵は二人の浪人に襲われるが一太刀で 追い返す。その様子を偶然通りかかった小兵衛が木陰から見ていた。後日、小兵衛は半年ぶりに訪れた「不二楼」でその逃げ去った浪人を見かける事になる。
不二楼の主人・与兵衛が気を利かし、隠し部屋のある「蘭の間」で密談する小田切平七郎と平山浪人の話に大二郎の名が出たことから事件が始まる。

「浪人・波川周蔵」「蘭の間・隠し部屋」「風花の朝」「頭巾の武士」「忍び返しの高い塀」「墓参の日」「血闘」

2005年2月15日火曜日

剣客商売「波紋」

池波正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ13作目

収録5編の登場人物
「消えた女」
千駄ヶ谷の松崎助右衛門を訪ねていた小兵衛は帰り道、山口為五郎に囮を仕掛けて現れるのを待つ弥七と傘得に出会う。
囮をみた、小兵衛の顔色が変わる。
「波紋」
老剣客・藤野玉右衛門を見舞った大次郎は帰り道に弓を射かけられ何者かに襲われる。その日品川に住む岩戸の繁蔵の兄・七助は、大次郎を襲った浪人の一人、関山百太郎を刺殺する。品川の様子を見にいった繁蔵は帰りに立ち寄ったそば屋で、お尋ね者井上権之助を見かける。辻平右衛門道場の同門で医者の横山正元。
「剣士変貌」
橋場の船宿「鯉屋」で、菓子舗「笹屋長蔵」の女房・お吉が15年前に中西弥之助の食客であった横堀喜平次と密会しているところを見る。一時はほっておこうと決めた小兵衛だったが「長虫の甚九郎」と異名を取る、野原甚九郎とも関わりがあることを突き止め張り込みをはじめる。
「敵」
大次郎の道場に来ている中沢春蔵は、賭場で知り合った平吉という男から10両で人一人を気絶させてくれるよう頼まれる。その男は笠原源四郎。翌日、大次郎宅で笠原源四郎が死んだことを知る。笹原は秋山父子とも縁のある人物だった。
「夕紅大川橋」
小兵衛の40年来の付き合いがある内山文太の娘、孫を巡った物語。

2005年2月13日日曜日

剣客商売「十番斬り」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ12作目

収録7編のあらまし
「白い猫」
小兵衛は井関忠八郎の道場に滞留していた平山源左衛門との真剣勝負に向かう途中で白い猫と出会う。
「密通浪人」
小兵衛の義理の弟で文敬堂の主人・福原理兵衛。
その妻お米を寝取ったという浪人・高砂新六の話を鬼熊酒屋で偶然聞いてしまう。
「浮寝鳥」
真崎稲荷社の鳥居の前に座る老乞食が惨殺される。
大次郎は、その老乞食が惨殺された日に少女と会っているところを目撃していた。
「十番斬り」
小川宗哲を訪問した小兵衛は、戸越村・行慶寺の和尚の紹介で来ていた村松太九蔵という剣客を見かける。
村松は余命短いが「思い立ったことがあるので、今少し生きていたい」と宗哲に告げる。
「同門の酒」
辻平右衛門の恩を忘れないようにと行なっている年に一度のあるまりに矢村孫次郎が連絡もなく欠席をした。
探ってゆくと女の影が。
「逃げる人」
大次郎はふとしたことがきっかけで、高橋三右衛門という老人と知り合うが、敵に追われる身だった。
「罪ほろぼし」
小兵衛は小川宗哲を訪ねた帰り道侍を助ける。
侍は永井源太郎、物語「辻斬り」で辻斬りをし小兵衛に捕らえられた永井十太夫の倅で薬種問屋「啓養堂/小西彦兵衛」の用心棒をしていた。

2005年2月11日金曜日

剣客商売「勝負」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ第11作
初孫、秋山小太郎誕生。

収録7編の登場人物
「剣の師弟」
「約束金二十両」で登場した老剣客、平内太兵衛を訪ねた小兵衛は帰り道の林の中で、侍二人対町人一人が斬り合う場に出会わすが、だらしのない侍の一人を町人が斬りつけ逃げてしまう。
浅野幸右衛門の旧居に寄るため湯島まで戻った小兵衛が酒屋「浮島」に寄りふと店に入ってきた二人連れを見ると、さっき逃げていった町人風と小兵衛の門人、黒田精太郎だった。
「勝負」
大治郎は牧野越中守貞長の希望により谷鎌之助と試合をすることに。相手の鎌之助は大治郎に勝てば仕官が叶うという条件が付いている。
「初孫命名」
孫の名付けに悩む小兵衛は、旧友の松崎助右衛門を訪ねるが、途中で偶然、小兵衛宅に押し込む算段を耳にする。
「その日の三冬」
三冬が井関忠八郎道場での修業時代、門人だった岩田勘助にまつわる話。
「時雨蕎麦」
小兵衛は弟弟子の川上角五郎とばったり出会う。角五郎が再婚するというが。。。
「助太刀」
堤の上で扇子や団扇を売っている男、林牛之助は、親の敵を持つ中島伊織を助けて敵を捜していた。
「小判二十両」
小兵衛は門人、小野田万蔵が船宿で怪しい話をしているところを隠し部屋で聞いてしまう。

2005年2月10日木曜日

剣客商売「春の嵐」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ第10作
秋山大治郎を名乗る頭巾の辻斬りを巡る七編。

収録7編のあらすじ
「除夜の客」
大晦日の晩、八百石の旗本、井上主計助が秋山大治郎と名乗る頭巾の侍に斬殺される。
同じ頃、団子坂の杉本道場では、首を括って死のうとしていた菓子舗、不二屋太兵衛の倅、芳次郎を又太郎が助ける。
「寒頭巾」
又太郎に助けられた芳次郎、太兵衛の頼みもあり杉本道場
で寝泊まりすることに。
「善光寺・境内」
正月九日、松平越中守定信の家来、伊藤助之進が秋山大治郎と名乗る頭巾の侍に斬殺される。
秋山大治郎は評定所で取り調べを受ける。
ずっと青山を張っていた傘屋の徳次郎が大治郎にそっくりの頭巾の侍を発見する。
「頭巾が襲う」
徳次郎が突き止めた頭巾の男の隠れ家は、小兵衛も面識がある戸羽休庵の屋敷だった。
小兵衛は、荒川大学信勝を訪ね戸羽休庵が亡くなっていることと、現在は孫、戸羽平九郎が住んでいることを知る。
「名残の雪」
戸羽の屋敷を探るため訪ねた小兵衛を尾行してきた岩森源蔵を杉本道場に誘い込み、生け捕りにしてみると、芳次郎の恋敵?の配下だった。
「一橋控屋敷」
小兵衛は、田沼意次と会うが事が複雑であることを再確認する。
戸羽平九郎は、小兵衛に気付かれたことを知り、身柄を一橋控屋敷へ移すが戸羽屋敷の下男が一橋控屋敷に入るところを傘徳みとどける。
「老の鶯」
一橋控屋敷を張っていた傘徳は、出てきた侍が佐田国蔵の道場にはいるところを確認する。
翌日、小兵衛が道場を見に行くと、偶然、昔の門人、原田勘助に声をかけられ、佐田国蔵と会うことになり、平九郎が「大むら」に身柄を移したことを知る。

2005年2月9日水曜日

剣客商売「待ち伏せ」

池波 正太郎(新潮社)

剣客商売シリーズ第9作
仇討ちに関わる話や人のこころに関する話が多いような。
三冬、ご懐妊。

収録7編の登場人物
「待ち伏せ」
大治郎は、小兵衛が四谷の道場時代おおくの庇護を受けた千二百石の旗本、若林金之助の屋敷からの帰り道、親の敵と間違われる。間違った相手を求め、金之助の屋敷から現れた、佐々木周蔵と出会う。
「小さな茄子二つ」
「雷神」で登城した小兵衛の弟子、落合孫六。
義弟の頼みで根岸の絵師、住吉桂山に百両を借り受け、帰る途中襲われ百両も奪われる。
「或る日の小兵衛」
夜半に目覚めた小兵衛。手水に起きふと厠の小窓から外を見ると白い着物をまとった老婆が立っていた。
「秘密」
杉原秀の道場に手裏剣の指南を頼みに行った帰り道、四人の無頼浪人に絡まれている百姓娘を助ける。
その大治郎に宮部平八郎と名乗る侍が人を斬ってほしいと頼む。相手は滝口友之助、大治郎も知っている侍だった。
「討たれ庄三郎」
鬼熊酒屋の亭主、文吉が小兵衛の家に黒田庄三郎を連れてくる。黒田は果たし合いの立ち会いを小兵衛に頼みに来たのだった。
「冬木立」
11月の雷雨の日、小兵衛は三年前の同じ雷雨の日に雨宿りに入った飯屋で、純真な介抱をしてくれた少女のことを思い出し訪ねるが。
「剣の命脈」
金子孫十郎道場で十傑とうたわれた剣士、志村又四郎は死病を患い床についている。最後に大治郎と真剣で立ち会いたいと屋敷を抜け橋場の道場に向かう。

2005年2月7日月曜日

悩める狼男たち

マイケル・シェイボン、訳:菊地 よしみ(早川書房)

"ピュリッツアー賞作家が描く、ちょっと変わった家族の絆。切なくて可笑しい短編集"
複雑な家庭環境にある人たちの人間関係や、幼少時代の特殊な体験をずっと引きずっている人たちの物語がつづられている。
ウイットとユーモアあふれるということで、本書では"切なくて可笑しい"といっているが、結構危ない人たちの話に思えてならない。
アメリカという国の話、と思ってはいられず、妙にリアルに読んでしまった。

「悩める狼男たち」
両親が離婚し、キャンベルトマトスープのにおいを発していると評判のポール・コヴェル。
隣人で同じクラスの狼男ティモシー・ストークスとの関係。
「家探し」
ダニエル・ダイアモンドと妻のクリスティ・カイト。
不動産屋ボブ・ホーグの案内で家を探す。
「狼男の息子」
思わぬ事故から妊娠したカーラ・グランズマン、夫リチャードとの出産までの心模様。
「グリーンの本」
少年期の行動から自らを幼児性愛者では、と疑う心理療法士のグリーン。分かれた前妻と一緒に暮らしている娘ジョスリンとともに、グリーンの母親の友人エミリー・クラインを見舞う。
「ミセス・ボックス」
盗んできた光学機器を詰め込んだステーションワゴンを泣きながら運転している、破産した検眼士、エディ・ズワング。
衝動的に通りかかった前妻の祖母ホーラス・ボックスを訪ねる。
「スパイク」
コーンの結婚生活、それは盲目的な希望と不運の短いお話。
「ハリス・フェトコの経歴」
フットボールチーム、レジャイナ・キングスのクォーターバック、ハリス・フェトコ。滞在先のホテルにフットボールの天才といわれた父親、ノーム・フェトコからのメッセージが届いていた。
「あれがわたしだった」
ワシントン州、チャップ島の酒場パッチのカウンター。
マイク・ヴィールと隣の女の物語。
「暗黒製造工場で」
著者の長編小説に登場する架空のホラー小説家、オーガスト・ヴァン・ソーンの作品という設定の怪奇小説。