2006年6月21日水曜日

博士の愛した数式

小川 洋子(新潮社、2003/08/28)

映画の宣伝などで関心があったので、躊躇なく読んだ。
登場人物は、自動車事故の後遺症で記憶が80分しか続かない「博士」と呼ばれる数学者、家政婦「私」と博士に「ルート」とニックネームを付けられた「私」の息子の3人が中心。そこに「博士」の義姉、阪神タイガースと江夏豊が絡み合い進んでゆく。

この物語は(ちょっと特殊な状況下ではあるものの)普通の生活の中で起こる出来事から、人そのもの優しさとか愛とか、といったことをすごくストレートに書いている。少しホッでき、ちょっと痛い話。

この本は、子供に勧められて読んだ、はじめての本となった。
小さい頃に数字の本を色々読ませたからか、それとも「博士」が言うように「子供は大事にしないといけない」と暗に注意されたのか。。

2006年4月20日木曜日

ダ・ヴィンチ・コード (上・下)

ダン・ブラウン、越前 敏弥/翻訳(角川書店、2004/05/31)

ルーブル美術館の館長、ジャック・ソニエールがグランドギャラリーで殺害される。現場に残された異常なメッセージから始まるミステリー。
イエスの真実を伝え守る秘密結社・シオン修道会によって守られてきた聖杯の秘密を、ハーバード大学で宗教象徴学が専門のロバート・ラングドン教授とソニエールの孫でフランス司法警察暗号解読官のソフィー・ヌヴーが謎に導かれながら解読していく。

西洋史に詳しくないので事情が分からないことが多いが、単純にある暗号に隠された秘密を追う、というサスペンスものとして楽しめる。
かなり都合良く(トントン拍子に)話が進むという点が気にはなるが。。

そういう意味ではビジュアルが想像しやすく、小説というよりは映画っぽい。
登場人物についても、見た目のイメージは想像しやすいが「それで…?」って感じは否めない。もう少しディテールがあるとイイのにと思ったが、ストーリーの輪郭がぼけるのかなぁ。
特に、全編を通じて登場する、フランス司法警察中央局のベズ・ファーシュ警部、オプス・デイ代表のマヌエル・アリンガローサ司教とシラス、英国人宗教史学者のリー・ティービングとか。

このテーマについては、既にいろいろな書籍とかサイトで解析されているので、ほっていくと面白いのかも。
実は、数年前に買った「イエスのミステリー」という死海文書ネタの本を持っているんだけど、イマイチそれだけ読んでもピントもないんだな。
また、時間が出来たら読むことにしよう。

2006年2月5日日曜日

新・地底旅行

奥泉 光(朝日新聞社、2004.1)

文藝春秋SFが読みたい2005「ベストSF2004」国内部門4位の作品

2002.9.1-2003.6.30、朝日新聞の朝刊に連載された小説を単行本化
ベルヌの地底旅行をベースに、挿絵画家・野々村鷺舟(ろしゅう)と、迷惑な旧友・富永丙三郎が稲峰博士、稲峰都美子探索の珍道中を繰り広げる。
加えて、水島鶏月、稲峰家の手伝い・さとらが良いキャラクターで脇を固める。

冒険何とかと言うには力が抜けていて落語を聞いているよう。
稲峰博士が登場する終盤は奇想天外な結末へ。って感じだけど。

うーん?
そこまでがいいテンポだっただけにちょっと尻すぼみな感じ。

2006年2月1日水曜日

熱帯

佐藤 哲也(文藝春秋、2004/08/25)

数年越しのお上のシステム開発から降ろされた営業の呟きを聞き入れた神様の気まぐれで、空調が停まるほどの熱気と湿気に襲われた日本。
そんな中、エアコンを爆破するテロリストを束ねる多々利無運、「事象の地平」の管理する多々見不運、それに関わる、KGBやらCIA、おまけに水棲人まで登場する。
最後までよくわからない話。

よく最後まで読んだなぁ。

2006年1月22日日曜日

アブダラと空飛ぶ絨毯—空中の城〈2〉

ダイアナ・ウィン ジョーンズ、西村 醇子/翻訳(徳間書店、1997/8)

ハウルの動く城の原作「魔法使いハウルと火の悪魔」の姉妹編。
主人公アブダラが日ごと空想する世界が現実となる。
鍵を握るのは魔神(ジン)・ハスラエル。

2006年1月19日木曜日

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

コニー・ウィリス、大森 望/翻訳(早川書房・海外SFノベルズ、2004/4)

SFが読みたい2005「ベストSF2004」海外部門の3位に選ばれたタイムトラベルラブコメディサスペンス。
ヒューゴ賞、ローカス賞をはじめドイツ、スペインなどで様々な賞を受賞している作品。
物語は、過去へのタイムトラベルは実現している近未来の2057年。
第二次大戦中、空襲で消失したコベントリー大聖堂の修復が行われている。
細部の確認するために多くのスタッフが、タイムマシン「ネット」で過去に送られ研究をしている。
そんな中、キンドルは過去から子猫を連れてきてしまう。
歴史保護のため、後生に影響を与える物品の移動は出来ないはずのネットをなぜのこが抜けられたのか、またその影響は。
主人公の、ネット・ヘンリーとキンドルが奔走する。

本作品は、ジェローム・K・ジェロームの「ボートの三人男(1889)」を讃えつつ、軽快な語り口で、飽きることなく読むことができる。
確かにSFに間違いないが、所謂SFファンでなくても無理なく楽しめる作品。
面白かった。

2006年1月8日日曜日

ファンキー・ジャズの勉強(植草甚一スクラップ・ブック)

植草 甚一(晶文社; 新装版版、2005/6)

ファンキーというキーワードで検索して巡り会った本。
著者は、欧米文学、ジャズ、映画の評論家で、70年代には、エッセイ『ぼくは散歩と雑学が好き』を刊行してサブカルチャーを普及させた植草甚一。
1959-61年に「ダウン・ビート」「スイング・ジャーナル」誌に掲載された文章をまとめたもの。
この本を読んで、改めて「ジャズ」を聞いたこともなかったことに気が付き、早速、アート・ブレイキー、ホレス・シルバー、MJQ、キャノンボール・アダレー等聞いた。

最終章の、1961年「ダウンビート」誌、8-9月号に掲載された「キャノンボール・アダレー・クインテットの内幕」からの引用が面白い。
キャノンボール・アダレー・クインテットのメンバーに編集者・ドン・デマイケルが、音楽を演奏する際に「信仰心」とか「遺伝的才能」がどれほど関係あるか、というテーマで座談会をやっている。
ジャズの本質に触れようとしたこの座談会は、当時のアメリカでは初めてだったらしいが時代を考えればうなずける。

デマイケルの問いに対する各メンバーの考え方は今読むと面白い。
ソウル・ミュージックは黒人音楽をさし、クール・ジャスは白人音楽をさすといったジム・クロウ観念による対立、とか、人種差別が当たり前の時代に、「人間はみんな人間だ。黒と白の区別なんか意味はない。スイングするかしないかだよ!!」という、サム・ジョーンズの言葉はイタイ。

植草氏の著書も初めて読んだが、なかなかいい。
折しも、晶文社創立45周年記念で「植草甚一スクラップ・ブック 全40巻[別巻1]」完全復刊!!とのこと、他のも読んでみたい。