2005年2月27日日曜日

剣客商売「二十番斬り」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ15作目
小兵衛を通して池波自身の「老い」に対する想いが現れているような。

「おたま」
白猫・お玉があるじを助けるために小兵衛を呼びにくる。
そこには四十年前に辻平右衛門道場で仁王と呼ばれた、夏目八十郎が縛り付けられていた。
「特別長編・二十番斬り」
皆川石見守の世継ぎ騒動に巻き込まれる小兵衛。
田沼意次の長男・田沼山城守意知が江戸城中において佐野善左衛門に斬る付けられ死に至るといった、田沼意次を巡る政治模様も交え総力戦。
杉原秀、横山正元、弥七、傘徳、又六、千駄ヶ谷の松崎助右衛門

小兵衛が明け方目眩に襲われるところから始まる。
小川宗鉄に見てもらうと「六十六才で、ようやく老人の躰に向かいつつある印を見た...」といわれる。
その日の昼近く、隠宅の物置に隠れた賊を追って侍がとを蹴破ろうとしている。小兵衛が追い払い賊を確かめると、太ももを切られた門人・井関助太郎と幼い子供だった。
目次:「目眩の日」「皆川石見守屋敷」「誘拐」「その前夜」「流星」「卯の花腐し」

2005年2月20日日曜日

剣客商売「暗殺者」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ14作目
特別長編・暗殺者田沼意次暗殺を巡る長編。

松平伊勢守は田沼意次に御目付衆を罷免された恨みを晴らすため、年に一度、私仕事で出かける墓参の日に討ち取ろうと計画する。
目黒不動・門前の「山の井」で萱野の亀右衛門と密談する波川周蔵、五十両で仕掛けを頼まれている。その帰り道、波川周蔵は二人の浪人に襲われるが一太刀で 追い返す。その様子を偶然通りかかった小兵衛が木陰から見ていた。後日、小兵衛は半年ぶりに訪れた「不二楼」でその逃げ去った浪人を見かける事になる。
不二楼の主人・与兵衛が気を利かし、隠し部屋のある「蘭の間」で密談する小田切平七郎と平山浪人の話に大二郎の名が出たことから事件が始まる。

「浪人・波川周蔵」「蘭の間・隠し部屋」「風花の朝」「頭巾の武士」「忍び返しの高い塀」「墓参の日」「血闘」

2005年2月15日火曜日

剣客商売「波紋」

池波正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ13作目

収録5編の登場人物
「消えた女」
千駄ヶ谷の松崎助右衛門を訪ねていた小兵衛は帰り道、山口為五郎に囮を仕掛けて現れるのを待つ弥七と傘得に出会う。
囮をみた、小兵衛の顔色が変わる。
「波紋」
老剣客・藤野玉右衛門を見舞った大次郎は帰り道に弓を射かけられ何者かに襲われる。その日品川に住む岩戸の繁蔵の兄・七助は、大次郎を襲った浪人の一人、関山百太郎を刺殺する。品川の様子を見にいった繁蔵は帰りに立ち寄ったそば屋で、お尋ね者井上権之助を見かける。辻平右衛門道場の同門で医者の横山正元。
「剣士変貌」
橋場の船宿「鯉屋」で、菓子舗「笹屋長蔵」の女房・お吉が15年前に中西弥之助の食客であった横堀喜平次と密会しているところを見る。一時はほっておこうと決めた小兵衛だったが「長虫の甚九郎」と異名を取る、野原甚九郎とも関わりがあることを突き止め張り込みをはじめる。
「敵」
大次郎の道場に来ている中沢春蔵は、賭場で知り合った平吉という男から10両で人一人を気絶させてくれるよう頼まれる。その男は笠原源四郎。翌日、大次郎宅で笠原源四郎が死んだことを知る。笹原は秋山父子とも縁のある人物だった。
「夕紅大川橋」
小兵衛の40年来の付き合いがある内山文太の娘、孫を巡った物語。

2005年2月13日日曜日

剣客商売「十番斬り」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ12作目

収録7編のあらまし
「白い猫」
小兵衛は井関忠八郎の道場に滞留していた平山源左衛門との真剣勝負に向かう途中で白い猫と出会う。
「密通浪人」
小兵衛の義理の弟で文敬堂の主人・福原理兵衛。
その妻お米を寝取ったという浪人・高砂新六の話を鬼熊酒屋で偶然聞いてしまう。
「浮寝鳥」
真崎稲荷社の鳥居の前に座る老乞食が惨殺される。
大次郎は、その老乞食が惨殺された日に少女と会っているところを目撃していた。
「十番斬り」
小川宗哲を訪問した小兵衛は、戸越村・行慶寺の和尚の紹介で来ていた村松太九蔵という剣客を見かける。
村松は余命短いが「思い立ったことがあるので、今少し生きていたい」と宗哲に告げる。
「同門の酒」
辻平右衛門の恩を忘れないようにと行なっている年に一度のあるまりに矢村孫次郎が連絡もなく欠席をした。
探ってゆくと女の影が。
「逃げる人」
大次郎はふとしたことがきっかけで、高橋三右衛門という老人と知り合うが、敵に追われる身だった。
「罪ほろぼし」
小兵衛は小川宗哲を訪ねた帰り道侍を助ける。
侍は永井源太郎、物語「辻斬り」で辻斬りをし小兵衛に捕らえられた永井十太夫の倅で薬種問屋「啓養堂/小西彦兵衛」の用心棒をしていた。

2005年2月11日金曜日

剣客商売「勝負」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ第11作
初孫、秋山小太郎誕生。

収録7編の登場人物
「剣の師弟」
「約束金二十両」で登場した老剣客、平内太兵衛を訪ねた小兵衛は帰り道の林の中で、侍二人対町人一人が斬り合う場に出会わすが、だらしのない侍の一人を町人が斬りつけ逃げてしまう。
浅野幸右衛門の旧居に寄るため湯島まで戻った小兵衛が酒屋「浮島」に寄りふと店に入ってきた二人連れを見ると、さっき逃げていった町人風と小兵衛の門人、黒田精太郎だった。
「勝負」
大治郎は牧野越中守貞長の希望により谷鎌之助と試合をすることに。相手の鎌之助は大治郎に勝てば仕官が叶うという条件が付いている。
「初孫命名」
孫の名付けに悩む小兵衛は、旧友の松崎助右衛門を訪ねるが、途中で偶然、小兵衛宅に押し込む算段を耳にする。
「その日の三冬」
三冬が井関忠八郎道場での修業時代、門人だった岩田勘助にまつわる話。
「時雨蕎麦」
小兵衛は弟弟子の川上角五郎とばったり出会う。角五郎が再婚するというが。。。
「助太刀」
堤の上で扇子や団扇を売っている男、林牛之助は、親の敵を持つ中島伊織を助けて敵を捜していた。
「小判二十両」
小兵衛は門人、小野田万蔵が船宿で怪しい話をしているところを隠し部屋で聞いてしまう。

2005年2月10日木曜日

剣客商売「春の嵐」

池波 正太郎(新潮文庫)

剣客商売シリーズ第10作
秋山大治郎を名乗る頭巾の辻斬りを巡る七編。

収録7編のあらすじ
「除夜の客」
大晦日の晩、八百石の旗本、井上主計助が秋山大治郎と名乗る頭巾の侍に斬殺される。
同じ頃、団子坂の杉本道場では、首を括って死のうとしていた菓子舗、不二屋太兵衛の倅、芳次郎を又太郎が助ける。
「寒頭巾」
又太郎に助けられた芳次郎、太兵衛の頼みもあり杉本道場
で寝泊まりすることに。
「善光寺・境内」
正月九日、松平越中守定信の家来、伊藤助之進が秋山大治郎と名乗る頭巾の侍に斬殺される。
秋山大治郎は評定所で取り調べを受ける。
ずっと青山を張っていた傘屋の徳次郎が大治郎にそっくりの頭巾の侍を発見する。
「頭巾が襲う」
徳次郎が突き止めた頭巾の男の隠れ家は、小兵衛も面識がある戸羽休庵の屋敷だった。
小兵衛は、荒川大学信勝を訪ね戸羽休庵が亡くなっていることと、現在は孫、戸羽平九郎が住んでいることを知る。
「名残の雪」
戸羽の屋敷を探るため訪ねた小兵衛を尾行してきた岩森源蔵を杉本道場に誘い込み、生け捕りにしてみると、芳次郎の恋敵?の配下だった。
「一橋控屋敷」
小兵衛は、田沼意次と会うが事が複雑であることを再確認する。
戸羽平九郎は、小兵衛に気付かれたことを知り、身柄を一橋控屋敷へ移すが戸羽屋敷の下男が一橋控屋敷に入るところを傘徳みとどける。
「老の鶯」
一橋控屋敷を張っていた傘徳は、出てきた侍が佐田国蔵の道場にはいるところを確認する。
翌日、小兵衛が道場を見に行くと、偶然、昔の門人、原田勘助に声をかけられ、佐田国蔵と会うことになり、平九郎が「大むら」に身柄を移したことを知る。

2005年2月9日水曜日

剣客商売「待ち伏せ」

池波 正太郎(新潮社)

剣客商売シリーズ第9作
仇討ちに関わる話や人のこころに関する話が多いような。
三冬、ご懐妊。

収録7編の登場人物
「待ち伏せ」
大治郎は、小兵衛が四谷の道場時代おおくの庇護を受けた千二百石の旗本、若林金之助の屋敷からの帰り道、親の敵と間違われる。間違った相手を求め、金之助の屋敷から現れた、佐々木周蔵と出会う。
「小さな茄子二つ」
「雷神」で登城した小兵衛の弟子、落合孫六。
義弟の頼みで根岸の絵師、住吉桂山に百両を借り受け、帰る途中襲われ百両も奪われる。
「或る日の小兵衛」
夜半に目覚めた小兵衛。手水に起きふと厠の小窓から外を見ると白い着物をまとった老婆が立っていた。
「秘密」
杉原秀の道場に手裏剣の指南を頼みに行った帰り道、四人の無頼浪人に絡まれている百姓娘を助ける。
その大治郎に宮部平八郎と名乗る侍が人を斬ってほしいと頼む。相手は滝口友之助、大治郎も知っている侍だった。
「討たれ庄三郎」
鬼熊酒屋の亭主、文吉が小兵衛の家に黒田庄三郎を連れてくる。黒田は果たし合いの立ち会いを小兵衛に頼みに来たのだった。
「冬木立」
11月の雷雨の日、小兵衛は三年前の同じ雷雨の日に雨宿りに入った飯屋で、純真な介抱をしてくれた少女のことを思い出し訪ねるが。
「剣の命脈」
金子孫十郎道場で十傑とうたわれた剣士、志村又四郎は死病を患い床についている。最後に大治郎と真剣で立ち会いたいと屋敷を抜け橋場の道場に向かう。

2005年2月7日月曜日

悩める狼男たち

マイケル・シェイボン、訳:菊地 よしみ(早川書房)

"ピュリッツアー賞作家が描く、ちょっと変わった家族の絆。切なくて可笑しい短編集"
複雑な家庭環境にある人たちの人間関係や、幼少時代の特殊な体験をずっと引きずっている人たちの物語がつづられている。
ウイットとユーモアあふれるということで、本書では"切なくて可笑しい"といっているが、結構危ない人たちの話に思えてならない。
アメリカという国の話、と思ってはいられず、妙にリアルに読んでしまった。

「悩める狼男たち」
両親が離婚し、キャンベルトマトスープのにおいを発していると評判のポール・コヴェル。
隣人で同じクラスの狼男ティモシー・ストークスとの関係。
「家探し」
ダニエル・ダイアモンドと妻のクリスティ・カイト。
不動産屋ボブ・ホーグの案内で家を探す。
「狼男の息子」
思わぬ事故から妊娠したカーラ・グランズマン、夫リチャードとの出産までの心模様。
「グリーンの本」
少年期の行動から自らを幼児性愛者では、と疑う心理療法士のグリーン。分かれた前妻と一緒に暮らしている娘ジョスリンとともに、グリーンの母親の友人エミリー・クラインを見舞う。
「ミセス・ボックス」
盗んできた光学機器を詰め込んだステーションワゴンを泣きながら運転している、破産した検眼士、エディ・ズワング。
衝動的に通りかかった前妻の祖母ホーラス・ボックスを訪ねる。
「スパイク」
コーンの結婚生活、それは盲目的な希望と不運の短いお話。
「ハリス・フェトコの経歴」
フットボールチーム、レジャイナ・キングスのクォーターバック、ハリス・フェトコ。滞在先のホテルにフットボールの天才といわれた父親、ノーム・フェトコからのメッセージが届いていた。
「あれがわたしだった」
ワシントン州、チャップ島の酒場パッチのカウンター。
マイク・ヴィールと隣の女の物語。
「暗黒製造工場で」
著者の長編小説に登場する架空のホラー小説家、オーガスト・ヴァン・ソーンの作品という設定の怪奇小説。

2005年2月2日水曜日

アイデアを探せ

阿刀田 高(文藝春秋)

オール読物、1995/1月から12月号に掲載された12編。
筆者の小説作法の第一歩であるアイデアの発見。そのアイデアをどうやって見つけ出すかを12編構成で読ませる。
詞を書く私には、かなり参考になるところが多かった。
しかし、如何せん阿刀田氏もいっている、仮にアイデアらしき物があっても、第二行程をどうするか、工房がしっかりしていなければかたちにできない。
これは実感です。。


第1話 猫の耳立つ
第2話 反比例エレジー
第3話 幽霊の研究
第4話 二百万円の厚さ
第5話 ぺんぺん草の育て方
第6話 どんでん返し讃歌
第7話 旅のメモランダム
第8話 知識のかけら
第9話 科学する心
第10話 思案は琥珀色
第11話 糸で繋いで
第12話 いくつもの岐路

2005年2月1日火曜日

イカロスになりそこねた男

H・G・ウエルズ(ジャストシステム)

1888年(芸術崇拝)のから1921年(消えた旧人類)の間に書かれた短編が十編が収録されている。解説で「少し毛色の違ったウエルズ像を紹介することを目指した」ということで内容はバラエティに富んでいる。
 
ウォルコート
クリスマスイブにウォルコート邸のエドウィンを訪ねた従兄のクロード、ヴィッツリーの2人は一年前に消えたエドウィンの兄、ハリーの話をしながらトランプをしている。
マントルピースの揺らめく炎が照らす、ブロンズ像のサタン、半身半獣のサテュロス、鎌をかまえた時の死に神、口がきけないオウムのポリーなど、おどろおどろしい状況設定。

ある無情な恋物語
詩人、オウブリ・ヴェールの不倫の話。愛情が苦難にさらされて初めて文学的実りを得られる、と確信しているオウブリ・ヴェールはテニスで知り合った少女、ミス・ミセスと恋に落ちる。
「不倫は強欲の次に並ぶが、飲酒癖よりはましである」という言葉が出てくるが、飲酒癖が一番ひどいのかしら。。

美しい服
母親に、美しい服を仕立ててもらった小柄な男の話。
月の輝く奇妙な夜に、その服を着てこっそり出かけてゆく。

空中飛行家
1895年に書かれた予言もの。
1903年のライト兄弟、初飛行より8年前の作品。
ウスター・パークの巨大な鉄の架台。発明狂モンソンの飛ぶ機械を巡る物語。

世界終末戦争の悪夢
列車に乗ってきた男が、語る現実と見分けがつかない夢の世界の話。

イカロスになりそこねた男
こちらも科学予言もの、1901年作品。
空を飛ぶことに生涯をかけた、発明家フィルマーの話、かな?

ダチョウの売買
ダイヤモンドをダチョウに飲み込まれた、モヒニ・パディシャ、そのダチョウを買い取ったユーラシア人のポター。ダチョウに高額の値が付いてゆく。

芸術崇拝
芸術家のアレックス。イザベルとの幸せな日々が画家としての霊感を鈍らせていると思い始める。絵の中にあられた悪魔と取引をするが。

消えた旧人類
ネアンデルタール人とクロマニヨン人の衝突を描き、過去の人類について考察している。物語の最後に「原始時代の失われた記憶がよみがえる日が来るかもしれない」といった事が書かれているところが興味深い。

ウェイドの正体
臆病者のウェイドが、マニングトリー先生に臆病が直る薬をもらい、大成するが、17年後に「あれはただの蒸留水だ」と打ち明けられる。