2010年10月5日火曜日

サイコロジカル(下) 曳かれ者の小唄

西尾 維新(講談社、2002/11/7)

戯言シリーズ、4作目の下巻。玖渚友の「チーム」時代のエピソードを織り交ぜながらの物語。引き続き舞台は、玖渚機関の研究施設の1つ、斜道卿壱郎研究所。

2日目、殺害された兎吊木垓輔が発見され、犯人として、友、「ぼく」、鈴無音々の3名は軟禁されてしまう。そこに石丸小唄が取引を持ち込んでくる。

このシリーズ、最後までちゃんと謎解きをしてくれないので、きっとこうなんだろうなー、とか思うにとどまっている。。

登場人物:
ぼく(戯言使い)
玖渚 友(青色のサヴァン)
鈴無 音々(みいこさんの親友、今回は保護者)
兎吊木 垓輔(害悪最近)
斜道 卿壱郎(堕落三昧)
大垣 志人(助手)
宇瀬 美幸(秘書)
神足 雛善(研究局員)
根尾 古新(研究局員)
三好 心視(研究局員で「ぼく」の恩師)
春日 井春日(研究局員)
哀川 潤(人類最強の請負人)
石丸 小唄(大泥棒)
零崎 愛識(侵入者)

2010年10月3日日曜日

クビツリハイスクール 戯言遣いの弟子

西尾 維新(講談社、2002/8/6)

戯言シリーズ、3作目。戦闘訓練を施す「向こう側の世界」の学校、澄百合学園から哀川潤の知り合い、紫木一姫を救い出すのが今回の仕事。前作までは、関わった人がピンポイントで死んでいたが、今回は手当たり次第、大量に人が死んでいく。

哀川潤に強制的に今回の仕事の手伝いに駆り出され、お嬢様学校・澄百合学園へ連れてこられた「ぼく」。紫木一姫という女子生徒を連れ出すだけのはずだったが、そこで待ち受けていたのは学園中に指名手配されていた一姫を探している生徒達、戦闘の訓練を受けた戦いのエキスパートのお嬢様達だった。

登場人物:
ぼく(戯言使い)
哀川 潤(人類最強の請負人)
紫木 一姫(依頼人)
市井 遊馬(ジグザグ)
萩原 子荻(策師)
西条 玉藻(闇突)
檻神 ノア(澄百合学園、理事長)

2010年10月2日土曜日

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識

西尾 維新(講談社、2002/5/8)

戯言シリーズの2作目。このシリーズは当たり前に人が死んでいく、しかもサイクルが短い。

前作の舞台「鴉の濡れ羽島」から戻って2週間後、語り部「ぼく」が、学食でちょっと早めの昼食中にクラスメイトの葵井巫女子がやってくる。彼女の親友・江本智恵の誕生日パーティーに一緒に行ってほしいと頼まれ誘いを受ける。
同じ時期、世間を騒がせていた連続殺人犯・零崎人識と遭遇するが、あまりに似ている二人は惹かれ合う。

江本智恵の家に葵井巫女子と巫女子の友人・貴宮むいみ、宇佐美秋春を加えた4人とともに過ごすが、翌日警察が翌日、警察から「江本智恵が殺された」と知らされる。
江本智恵との会話で彼女に何かを感じた「ぼく」は、再び出会った零崎人識とともに、事件の究明を目指す。

登場人物:
ぼく(戯言使い)
零崎 人識(人間失格、殺人鬼)
貴宮 むいみ(クラスメイト、巫女子の友達)
宇佐 美秋春(クラスメイト、巫女子の友達)
江本 智恵(クラスメイト、巫女子の友達)
葵井 巫女子(「ぼく」に思いを寄せるクラスメイト)
浅野 みいこ(隣人、剣客)
鈴無 音々(みいこさんの親友)
佐々 沙咲(刑事)
斑鳩 数一(刑事)
玖渚 友(青色のサヴァン)
哀川 潤(人類最強の請負人)

2010年10月1日金曜日

猫物語(黒)(講談社BOX)

西尾 維新、VOFAN/イラスト(講談社、2009/7/29)

「化物語」の前日譚。第禁話 つばさファミリーを収録。
暦が吸血鬼になって一ヶ月後のゴールデンウイークに起こった羽川 翼のエピソード。
物語シリーズ最終回の次の編だが「第禁話」となっている、こういう付け方だと後で順番が解らなくなりそうだな。

で、物語シリーズのタイトルは、主人公の名前+怪異の名前と決まっているので、今回は、ファミリーが怪異と言うこと。これは現実味があってかえって怖い。
オチも、実際に怪異なのか人の中に住まう何かなのか、ってところを曖昧にしているので確信犯だな。

ところで、ページの半分ぐらいまで読み進まないと本題に入らないこのスタイルはどうなの。嫌いじゃないけど。

2010年9月26日日曜日

偽物語(下)(講談社BOX)

西尾 維新、VOFAN/イラスト(講談社、2009/6/11)

「化物語」の次の話の後編。最終話 つきひフェニックスを収録。
暦の妹、月火を巡るエピソード。
ここでは、影縫 余弦(かげぬい よづる)、斧乃木 余接(おののき よつぎ)の暴力陰陽師と式神コンビが登場する。

不死身の怪異を専門としている、と知った暦は、自分が狙われていると思うが、これは月火のエピソードなのよね。

妹想いの暦は忍とともに激しい戦いを繰り広げる。(忍はそうでもなかったみたいだけど)
また、ここでも貝木 泥舟(かいき でいしゅう)が絡み、忍野との関係も明らかになる。

最終話となっているが、この後も続くことになったとあとがきで書いている。

2010年9月19日日曜日

偽物語(上)(講談社BOX)

西尾 維新、VOFAN/イラスト(講談社、2008/9/2)

「化物語」の次の話。第六話 かれんビーを収録。今までストーリーには絡まなかった暦の妹の物語。
上巻は上の妹、中三の火憐を巡るエピソード。
このエピソードで悪役として登場する貝木泥舟がこの後もいろいろ関わってくる。
絵に描いたような「悪い奴」だが、この辺の使い方がうまいなぁ。

しかし、この兄弟喧嘩で普通に生きていられる事が既に常軌を逸している。ということがスルーされているな。

2010年9月18日土曜日

傷物語(講談社BOX)

西尾 維新、VOFAN/イラスト(講談社、2008/5/8)

アニメ「化物語」を観たとき、オープニングバックで流れていた映像が気になっていた。
後でこのアニメの前日譚があることを知り、読むことに。
これを読んでやっといろいろ話がつながった。特に、羽川と忍(この頃はまだキスショットだけど)については、これを読まないとちっとも解らない。
で、気になっていたオープニングバックの映像は、見事に傷物語の映像だった事もわかり満足。

忍野が言う「みんなが不幸になる方法ならある」という台詞は、現実世界での甘っちょろい考えを一蹴しているようで、耳が痛い。

2010年9月15日水曜日

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い

西尾 維新、take/イラスト(講談社、2002/2/7)

本作品は、第23回メフィスト賞を受賞して二十歳でデビューした際の作品。
全9作ある「戯言シリーズ」の1作目。

そもそも、西尾維新作品との出会いは、ジャンプで連載中の「めだかボックス」が最初だが何とも極端な世界観だなぁ、というのが最初の印象。途中でついて行けなくなって拾い読みしかしていなかったのだが、アニメ「化物語」を観た事をきっかけにのめり込むことになった。
で、なぜ戯れ言シリーズかと言えば、単純にデビュー作を読んでみたかったから。
言葉遊び、掛詞、ダジャレなど、軽妙な台詞回しが楽しい。その割、語られるテーマは答えの出にくい普遍的なことだったりするので、飽きることもない。

で、クビキリサイクルの話。
語り部の「ぼく」こといーちゃんが、「青色サヴァン」こと玖渚友の付き添いとして訪れた、赤神イリアが所有する孤島「鴉の濡れ羽島」で起こった密室殺人事件をめぐる話。

登場人物
--
赤神イリア:鴉の濡れ羽島の主人
班田玲:屋敷のメイド長
千賀あかり:三つ子メイド長女
千賀ひかり:三つ子メイド次女
千賀てる子:三つ子メイド三女

伊吹かなみ:天才・画家
佐代野弥生:天才・料理人
園山赤音:天才・七愚人
姫菜真姫:天才・占術師
玖渚友:天才・技術屋

逆木深夜:伊吹かなみの介添人
ぼく:語り部、玖渚友の付添人

哀川潤:人類最強の請負人

2010年9月11日土曜日

ユダヤ警官同盟(上・下)

マイケル シェイボン、黒原 敏行/訳(新潮社、2009/4/25)

「SFが読みたい、ベストSF2009、海外編第5位」、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞のSF賞三冠制覇の改変歴史SF。
2007年、アラスカ・シトカ特別区。殺人課刑事ランツマンが暮らす安ホテルでヤク中のユダヤ人、ラスカーが殺された。
プロの仕事と見たランツマンは枕元のチェス盤を頼りに捜査を開始する。
而して、ラスカーはヘスケル・シュピルマン、ヴェルボフ派のレベの一人息子だった。

2010年9月2日木曜日

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選

ロバート・F・ヤング他、中村 融(訳)ほか(東京創元社、2009/10/10)

時の娘 ロマンティック時間SF傑作選を読んだ。
SFだからこそあり得るロマンティックな物語9編を収録したアンソロジー。
どれもクラシックだが、読後にジワッと効いてくる感じがいい。

収録作品
チャリティのことづて(ウイリアム・M・リー / 安野 玲)
むかしをいまに(デーモンナイト / 朝倉 久志)
台詞指導(ジャック・フィニィ / 中村 融)
かえりみれば(ウィルマー・H・シラス / 中村 融・井上 知)
時のいたみ(バート・K・ファイラー / 中村 融)
時が新しかったころ(ロバート・F・ヤング / 市田 泉)
時の娘(チャールズ・L・ハーネス / 朝倉 久志)
出会いのとき巡りきて(C・L・ムーア / 安野 玲)
インキーに詫びる(R・M・グリーン・ジュニア / 中村 融)

2010年8月25日水曜日

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

海堂 尊(宝島社、2009/2/20)

「ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて」を読んだ。
田口・白鳥シリーズの番外編といったもの。本作はシリーズ第3弾『ジェネラル・ルージュの凱旋』の主人公、救命救急医・速水が「将軍」と呼ばれるきっかけとなった事件、15年前の若き日の速水を描いている。

また、海堂尊自身による作品解説(登場人物一覧&関係図&年表&用語解説&医療事典付き)や日々を綴ったエッセイを収録している。作品執筆時のBGMの話とかなかなか面白い。

2010年8月15日日曜日

セント・ゲリラの祝祭

海堂 尊(宝島社、2008/11/7)

「田口・白鳥シリーズ」の第4弾。
物語は舞台を桜宮市から厚生労働省に移し「医療事故調査委員会創設検討会」での政治的駆け引きを描く。

例のごとく白鳥からの指名によって厚労省の「医療関連死モデル事業」会議に、リスクマネジメント委員会委員長として出席することになった田口だが、これをきっかけに「医療事故調査委員会創設検討会」のメンバーを引き受ける羽目になる。
そこでは官僚、法律学者、法医学者などの教授達や「バチスタ・スキャンダル」の被害者の遺族などが委員として名を連ねる。

今回の目玉は、かつて第二医師会、スト実行を手引きしたとして注意人物とされている、彦根新吾。
なんと、彦根は田口の2年後輩でポン友。(そういえば本シリーズでは麻雀の打ち方で性格などを表現することが多い)
その彦根が、田口を訪ね桜宮にやってくる。
用件は「医療事故調査委員会創設検討会」にAI導入を提案し、参考人として彦根の相方、檜山シオンを招致すること。

次作へのフックと思える警察庁、斑鳩芳正の動きが気になる。

主な登場人物
田口 公平
高階 権太
島津 吾郎

加納 達也
斑鳩 芳正
北山 錠一郎

白鳥 圭輔
八神 直道
坂田 寛平

西郷 綱吉
田島 勇作
日野 真人
小倉 勇一
田辺 義明
高安 秀樹
浅井 貞吉
相川 太一
西川 洋子
田村 幸三

別宮 葉子

彦根 新吾
檜山 シオン
クリフ・エドガー・フォン・ヴォルフガンフ

2010年8月10日火曜日

螺鈿迷宮

海堂 尊(角川書店、2006/11/30)

イノセントゲリラを読み出したら、どうも途中が抜けている感じがして、「螺鈿迷宮」を先に読むことにした。
内容的には「チーム・バチスタの栄光」からはじまる、白鳥・田口シリーズなのだが、出版社が違うため時系列を見落としていたようだ。

舞台は、これまでにたびたび登場していた碧翠院桜宮病院。
ここに東城大学医学部付属病院で実習を終えた氷姫こと姫宮が潜入している。
この姫宮と絡み、話を可笑しくしているのは、東城大学医学部の学生・天馬大吉、この物語の語り部でもあり、後半明らかにされる重要な存在。
大吉は幼なじみの別宮洋子(現在は時風新報社会部主任補佐)に無理くり依頼され内部調査のためボランティアとして潜入する。
もちろん様々な仕込みは、白鳥調査官の差し金。バチスタの時のような強引さではなく、思慮、優しさなどが目立つ役柄になっている。

最後に巌雄が話す謎解きや、エピローグでの桜宮家の生き残りの書き方など、事実を淡々と解き明かす本シリーズよりもちょっとミステリーっぽい。説明が多いって気はするけど。
これで安心してイノセントゲリラを読める。

主な登場人物
桜宮巌雄
桜宮華緒
桜宮葵
桜宮すみれ
桜宮小百合

結城
立花茜
立花善次(高倉善次)

2010年7月28日水曜日

紫色のクオリア

うえお 久光(アスキーメディアワークス、2009/7/10)

SFが読みたい! 2010版、ベストSF2009国内編10位の作品。
帯のコピーに「人間が”ロボット”に見えるというー」とあり、いったいどんな話かと探りながら読み始めた。
あまりライトノベルは読んでいないが、これはなかなか面白かった。

中学生の視点で、量子力学、平行世界やシュレディンガーの猫を語ると中々解りやすく、また、日頃から「同じものを見ていても自分と他人では同じ物とは限らない」と思っているのだが、タイトルの”クオリア”が感覚質といわれる「頭の中で生まれる感じ」の事と本書で知った。

しかし、マナブはいったい何年生きたんだろう??

Contents
鞠井についてのエトセトラ
1/1,000,000,000のキス
If

主な登場人物
鞠井ゆかり:人間がロボットに見える、また、何でも修理できる。人でさえ。
波濤学(マナブ):殺人鬼に切断された左腕をゆかりに携帯電話で”修理”してもらったことで平行世界に通じるようになったゆかりの友達。
天条七美:ゆかりの幼なじみ、小さいときにジャングルジムで大けがしたが、ジャングルジムの部品で”修理”してもらった。
アリス・フォイル:JAUNTからゆかりを勧誘にきた天才少女

2010年7月20日火曜日

ジェネラル・ルージュの凱旋

海堂 尊(宝島社、2007/4/7)

田口&白鳥シリーズ第3弾。舞台はオレンジ救命救急センター。
「第2弾 ナイチンゲールの沈黙 」でがっかりしたので、ちょっと引き気味に読み出したが、これは面白い。当初の遣り取りが健在で引き込まれた。

話は、前作と同じ時期に起こっていたもう一つの物語で表裏の関係になる。
これを読むと、田口先生はこっちで忙しかったのね、と妙に納得。

不定愁訴外来の田口講師が委員長を務めるリスクマネジメント委員会に、救命救急センター部長の速水晃一が癒着しているという匿名の内部告発文書が投函される。
もてあました田口は、病院長、高階に相談するが、いつものごとくばばを引くことに。なんと田口を目の敵にする、エシックス・コミティ委員長の沼田と正面から戦うことになる。

第1作も言葉の遣り取りに魅了されたが、今回も同様。速水のアグレッシブフェーズが気持ちいい。
また、名前だけは最初から登場していた姫宮も、ドミノとあだ名されながらもポテンシャルの高さを見せる。早く碧翠院桜宮病院潜入編を読みたいなぁ。

最後の大惨事はできすぎだが、まぁいいかな。

2010年7月18日日曜日

ナイチンゲールの沈黙

海堂 尊(宝島社、2006/10/6)

出版社の紹介文から「第4回『このミス』大賞受賞作、25万部突破のベストセラー『チーム・バチスタの栄光』に続くメディカル・エンターテインメント第2弾!
バチスタ・スキャンダルから9ヵ月後、愚痴外来田口&ロジカル・モンスター白鳥コンビが帰ってきた!」ということで、期待して読んだ。
ただ、そうそう同じ病院内で事件性のある設定っていうのも厳しいだろうな、とは思っていたがなんとふつうに殺人事件が起こり、東城大学医学部付属病院の関係者が容疑者。

今回は、白鳥の学生時代の天敵、加納警視正。白銀の迦陵頻伽と呼ばれる伝説の歌手、水落冴子など、外部のキャラクターが増えている。
加えて、何となくいわくがありそうな桜宮病院の話などがちりばめられているが、どうも話が散漫で、テンポも悪く白鳥の切れも悪い。

前作が面白かっただけに残念感が強い。

ちなみに、迦陵頻伽(かりょうびんが)は上半身が人で、下半身が鳥の仏教における想像上の生物とのことだそう。

追記:
気を取り直して「ジェネラル・ルージュの凱旋」を読み始めたが、これはナイチンゲールの沈黙と平行して起きていた、東城大学医学部付属病院でのもう一つの物語。
姫宮も登場し、ちょっと面白くなってきた。

2010年7月10日土曜日

ベガーズ・イン・スペイン(ハヤカワ文庫SF)

ナンシー クレス、翻訳/金子 司ほか(早川書房、2009/3/31)

本書は、早川書房編集部により日本で独自に編集された短編集。

収録作品は、
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ベガーズ・イン・スペイン(1991年、訳:金子 司)
21世紀初頭、遺伝子改変技術により睡眠を必要としない人類「無眠人」が現れる。
あらゆる点において優れる無眠人は、一般人「有眠人」から妬みを買うことになる。
ヒューゴ賞、ネビュラ賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル誌読者賞、ローカス賞2位などを受賞した作品。遺伝子操作により眠らない人種「無眠人」が社会に現れることによって起こる社会現象を描いた作品。

眠る犬(1999年、訳:山岸 真)
ベガーズ・イン・スペインの後半の時期のサイドストーリー。
不法に無眠技術を施された犬によって、有眠人キャロル・アンが体験した物語。

戦争と芸術(2007年、訳:金子 司)
地球人とテル人との戦時下。
ポーター大尉は実の母、アンソン将軍からの指令により、テル人が人類から盗み出した大量の人工物(芸術品)の調査に向かう。
宇宙もので親子問題もの。ローカス賞7位。

密告者(1996年、訳:田中 一江)
全員が共有する同じ現実によって絆を深める信じる異星が舞台。
妹を殺害した罪で存在自体を認められない「非実現者」として扱われるユーリ・ペク・ベンガリン。罪から解放されるために「密告者」となって「現実と贖罪省」の指示に従って内定任務をこなす。
最後の任務、といわれた相手は地球人。ある実験と妹の死がつながる。
ネビュラ賞、スタージョン記念賞、アシモフ誌読者賞、ローカス賞8位受賞。


思い出に祈りを(1988年、訳:宮内 とも子)
脳の手術によって延命できるが、記憶はすべて無くなってしまう。
ショートショート。

ケイシーの帝国(1981年、訳:山田 順子)
銀河帝国を失った男、ジェリー・ケイシーの物語。
こういうのをメタSFというのでしょうか。

ダンシング・オン・エア(1993年、訳:田中 一江)
バレエ界を舞台にした、ナノテクSF。
能力強化され5才程度の知力を持つ犬、エンジェルの目線で物語がはじまる。
能力強化が当たり前になりつつあるこの時代、ダンサーも強化によって高い運動能力を発揮していたが、ニューヨーク・シティ・バレエ団はあくまで生身にこだわった。
アシモフ誌読者賞受賞、ヒューゴ賞2位、ローカス賞2位ネビュラ賞候補。

2010年7月6日火曜日

チーム・バチスタの栄光

海堂 尊(出版社: 宝島社、2006/01)

第4回『このミス』大賞受賞作品。なんだけど、珍しく読むきっかけは医療もののミステリーに興味があって。
しかし、おもしろいこれ。キャラクターもいいし、文章もおもしろい。

ストーリーは、東城大学医学部附属病院の不定愁訴外来医師、田口講師が桐生助教授率いる天才外科チーム「チーム・バチスタ」で起こった連続術中死の原因調査を高階病院長に依頼されるところからはじまる。

高階の依頼で厚生省から派遣された白鳥と共にチームメンバー7名に対して様々な調査が行われるが、それぞれのキャラクターがハッキリしていて文章の緩急も上手いので全く飽きない。

早速、田口・白鳥シリーズが読みたくなっている。楽しみ。

2010年6月29日火曜日

ハーモニー(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

伊藤 計劃(早川書房、2008/12)

2010年度、日本SF大賞を受けたハーモニーを読んだ。
2009年3月にガンで死去した筆者、伊藤計劃の遺作となった。
従って、受賞は作者が死去したあとだった。

「ハーモニー」は、従来の「政府」に代わって「生府」が健康を管理する社会を築く。
どんな思いで執筆していたかなど知る由もないが。

21世紀後半、「大災禍(ザ・メイルストロム)」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は医療経済を核にした福祉厚生社会を実現していた。「生府」が配布するメディケア「WatchMe」で全身を隈無く監視される時代。そんな中、御冷ミァハの「一緒に死のう、この世界に抵抗するために」をきっかけに、霧慧トァン、零下堂キアンの3人の少女は餓死することを選択するがミァハ以外は生き残った。
と思っていたが。。

文章を、というMarkup Language形式で書いているところが面白い、これは人間以外の知性に対して伝えるための試作なのかも。

2010年6月21日月曜日

洋梨形の男

ジョージ・R・R・マーティン、中村 融/訳(奇想コレクション/河出書房新社、2009/9/15)

本書は SF が読みたい! 2010「ベストSF2009」で第3位。
SF 分野の受賞なのに、うたい文句はホラー短編集、というところに興味を持って読みだした。
はっきり言ってこの手の話はかなり好きな部類で久々に最近使っていなかった部分が活性した気がする。

収録作品は、以下の六編。
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■ モンキー療法
1984年度のローカス賞ノべレット部門受賞作品。
ダイエットをテーマにしたホラー作品。太った男、ケニー・ドーチェスターは、以前会員だった減量クラブで唯一、自分よりも体重のあったヘンリー・骨男・モロニーがガリガリにやせた上、リブステーキを4枚も平らげているところを目撃する。
減量の秘訣を訪ねると「モンキー療法だ」といい住所を教えてくれる。

■ 思い出のメロディ
弁護士デッドのマンションに、学生時代のルームメイト、メロディが訪ねてくる。
これまでにメロディには、様々な厄介ごとを持ち込まれた経緯があるためテッドは警戒するが、案の定、話はこじれメロディに出て行くようにきつく言い部屋を出る。数時間後帰宅すると、シャワールームからシャワーの音が。
最後まで手を抜かない怪談話。

■ 子供たちの肖像
1985年度のネビュラ賞ノべレット部門受賞作品。
小説家のリチャード・キャントリングの元に彼の小説に登場する人物の肖像画が送られてくる。送り主は娘のミッチェル。彼女が描いた絵は、夜になると絵から抜け出しキャントリングに話しかける。
この話は終わり方がビミョーで、夢なのか、超現実なのか、判断に困るところ。

■ 終業時間
バーテンのハンクは、カウンターに座る常連、バーニー・ディルがいつも話す夫婦生活の愚痴をウンザリしながら聞いていた。そこに怒り狂った常連のミルトンが店に現れる。よれよれピートをぶっ殺してやる、と叫びながら。
理由は、鷹に変身できるという触れ込みで売りつけられた護符が、ペテンだったと説明したが。

■ 洋梨形の男
1988年度ブラム・ストーカー賞ノベレット部門受賞作品。
ジェシーが越してきたアパートの地下にすむ洋梨形の男を巡る話。
これも話の終わり方が混沌としていて、判断に困るところ。

■ 成立しないヴァリエーション
ピーターは、学生時代のチェスグループのメンバー、ブルース・バニッシュの誘いを受け家を訪ねる。そこには当時の仲間E.C.とスティーブも呼ばれていた。今では、億万長者となったブルースは学生時代いじめられた復習をしようと考えていた。
タイムトラベルもの、この絶対終わらないブルースの執念はすごい。

2010年6月18日金曜日

ガリレオの苦悩

東野 圭吾(文藝春秋、2008/10/23)

ガリレオこと湯川が警察への協力を止めてからの物語。新たに内海薫が登場して、何となくテレビシリーズのイメージが持ちやすくなった。女性ということで差別されるのが嫌いな薫に対して、そのことを意識するあまり薫自身がその呪縛に陥っていることを暗に指摘する湯川の観察眼がいい。

「第一章   落下る」
一人住まいの女性がマンションから転落して死亡した。自殺か他殺か?
警視庁捜査一課の刑事・内海 薫は、被害者の恋人が犯人であると直観する。
自殺に見せるためのトリックを暴くため、草薙にたのみ湯川への紹介状をとりつけた薫は湯川のもとへ。
捜査協力を止めた湯川を再び現場へ向かわせる。

「第二章   操縦る」
脳梗塞の後遺症のため車椅子に頼って生活をおくる元大工学部助教授の友永幸正は、実の息子、邦宏と後妻の連れ子、奈美恵と共に複雑な家庭環境で生活している。邦宏とはうまくいって居らず口論が絶えない。
ある日、かつての教え子が彼の自宅に集うことになっていた日、ガラスが割れる音とともに離れが火事になり、邦宏の他殺体が発見される。
招待客の一人であった湯川は、不審に思い事件を調査する。

「第三章   密室る」
湯川の大学時代の友人、藤村が自身が経営するペンションで起きた事件の解明を依頼する。
湯川が当日の状況を詳しく調べるうちに意外な真相を突き止める。

「第四章   指標す」
老婦人が遺体で発見される。留守番中に強盗にあったのだが、仏壇に隠してあった金の地金だけが盗まれる。捜査上には地金の隠し場所を知っていた保険外交員の真瀬貴美子が容疑者として浮かぶが、同時にその娘、葉月の行動を監視していた薫は思わぬ光景を目にする。
書き下ろし作品。

「第五章   撹乱す」
人事異動のため研究部門から外されたことをきっかけに、由美を殺害してしまった高藤英治は、湯川に対する逆恨みから悪意を抱き「悪魔の手」と名乗り警視庁に挑戦状を送る。
英治は、過去に学会発表の際、湯川から質問されたことを根に持っていた。

2010年6月13日日曜日

シーズザデイ

鈴木 光司(新潮社、2001/04/ 1)

本作品は、1999年4月から2000年9月にかけて「小説新潮」に掲載された鈴木光司初の連載小説。
筆者あとがきを読むと、通常は脱稿するまで結末を決めずに行き当たりばったりで執筆するスタイル、だそうだが、今回は連載小説ということもあり「驚くべきことに半分ぐらい書き進んだところで、ラストが見えてきた」とのこと。
確かに半分ぐらいまでは、話がどこにゆくのかわからず登場人物への色づけが行われている感じで、読んでいても気持ちが滅入るエピソードが続く。
特に主人公の船越達哉は、体育会系の船乗りなのだがスポーツマン的なイメージとはかけ離れた印象がある。これも何事にも自信がもてず、優柔不断で自分勝手という印象を抱かせるエピソードのせいだろう。
これが、中盤を過ぎるとはっきり目標に向かって進み出すが、同時に先々の予想もついてしまった。
最初は、謎の金持ちだった岡崎も、物語の後半にゆくに従って様々な導きをもたらすキーへと進化していく。語る内容も興味深くつい今の自身に語られていることのように思えることがあった。

主な登場人物
主人公、船越達哉
達哉のかつての恋人、月子
達哉と月子の娘、陽子
船越のヨットの元オーナー、岡崎
岡崎の娘、稲森裕子
蒸発した船越の父、船越章一郎(水上開地)
章一郎の妻、水上都志子
章一郎と都志子の娘、水上朝代

2010年6月11日金曜日

夜明けの街で

東野 圭吾(角川書店、2007/07)

不倫ものに殺人トリック。と思っていたら全然違い。あっ、そうなるの。という感じでした。

一部上場の建設会社に勤務する渡部の部署に、仲西秋葉が派遣社員としてやって来る。
ひょんなことから不倫関係を持つようになるが、話を聞くうちに秋葉の家庭には特殊な事情があることを知る。
両親は離婚、その後母親は自殺。その直後に横浜の実家で父の愛人が殺されるという事件が起きた。その時効まで数ヶ月。

「不倫するやつなんて馬鹿だと思っていた。」という、書き出しを読んだ時点で既に作者の罠にはまってしまった。このあたりやっぱりうまいな。というか、俺が単純なんだな。

2010年6月10日木曜日

レイクサイド

東野 圭吾(文藝春秋、2006/02)

中学受験とそれに関わる人間模様をテーマにした物語。
中学受験を控えた子供を持つ家族四組が姫神湖の別荘に集まって合宿しているところへ、主人公・並木俊介が遅れて参加する。
しばらくして、そこへ俊介の部下、英里子がやってくる。
英里子は、俊介に頼まれ妻の浮気を調べていた。突然の来訪ではあったが若い女性ということで引き止められ泊まっていくことになる。事情がつかめない俊介が問いただすと、2時間後にはすべてがはっきりするという答え。
俊介は約束の場所で待つが英里子が現れないので、別荘に引き返すとそこで英里子は殺害されていた。
加害者は俊介の妻、美菜子だという。
本来なら、警察に連絡して。というのが当たり前だが、合宿参加者が皆そろって事件の隠蔽工作を積極的にすることに疑問を感じる俊介。


なんともドロドロとした人間関係と、世間ずれした感覚だが、ありそうな話でもあり、うーん。という感じ。

2010年6月8日火曜日

カッコウの卵は誰のもの

東野 圭吾(光文社、2010/1/20)

スポーツをテーマにしたサスペンス。
元日本代表のアルペンスキーヤー緋田の娘、風美は将来を有望視されているアルペンスキーヤー。
風美は勤め先である「新世開発スポーツ科学研究所」のサポートの元、世界を目指してトレーニングを続けている。
新世開発スポーツ科学研究所の研究者、柚木洋輔は、遺伝の組み合わせをパターン化し、同じパターンをもった親子ではその運動能力を継承する、ということを立証しようと、サンプルとして緋田親子に協力を頼むが断られる。

早い時点で、風美が実の娘ではなく何らかの事件に関わっていると言うことが明らかにされていくので、簡単なストーリーなのか、と思っていたらやはり東野作品。そんなわけ無く一気に面白く読め、内容の割にはすっきりとした読後感が残った。もしかするとこの前に読んでいる「禁断のパンダ」がすっきりしなかったからかも。

2010年6月6日日曜日

禁断のパンダ

拓未 司(宝島社、2008/1/11)

2008年『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
美食をテーマにしたミステリー。
神戸でフレンチスタイルのビストロを営む料理人、柴山幸太は、妻の友人と木下貴史との結婚披露宴に出席する。同じテーブルになった貴史の祖父、中島弘道はゴッド中島といわれた料理評論家だった。
その翌日、貴史の父・義明が営む会社に勤める松野庄司の刺殺体が神戸ポートタワーで発見される。

キャラクターの線が細いのと、中盤以降いっぺんに話がつながってくる流れのためか、はじめの方はぐいぐい引き込まれるという感じではなかったが、落としどころが見えてきてからはあっという間に読み切った。
一番最後のページがちょっとわからない。幸太の買い出しから貴史の話に移るところは、単純に貴史が弘道の血を引いている、という判断でいいのかな?

2010年5月29日土曜日

Self‐Reference ENGINE

円城 塔(早川書房、2007/05)

計算過程の存在しない計算→自然現象はまさにそのような計算として今この瞬間も進行している→自然現象を超える計算速度は存在しない→ならば自然現象として計算を行えばいい。という成り行きで進化しすぎた人工知性体が自然と一体化する。
そのイベントによって、時空間がぐじゃぐじゃになってしまう。大ざっぱに言うと、そのエピソードを第一部:Nearside、第二部:Farside の計18編を収録した物語。
言葉のリズム感がとてもいいのでどんどん読み進んでしまうんだが、ちょっと油断すると何の話だかちっともわからなくなる

2010年5月28日金曜日

天地明察

冲方 丁(角川書店、2009/12/1)

2010年本屋大賞受賞作、冲方丁といえば2003年に第24回日本SF大賞を受賞した「マルドゥック・スクランブル」を読んで印象に残っていた作家。
本作品が時代小説ということでちょっと驚いたが、16歳の時に主人公、渋川晴海の存在を知って以来いつか小説にしたいと思っていたとインタビューで語っている。

物語は、江戸時代前期に実在した渋川晴海を中心に進められた改暦を主題にしている。今でこそ暦といえば当然のように決まり切ったものと思っているがこれがバラバラだった時代、それまで日本で採用されていた「宣明暦」が正しくないことを実証し、初の国産となる「大和暦」を作り上げるという話。

渋川春海という名は後から本人が名乗った名で、もともとは安井算哲といい御城碁で将軍家に仕えた家柄。その実家は養子である義兄、算知が継いだので、領地である渋川を名乗るようになる。
算術、測地、天文学の才能に加え、囲碁で培われた人間関係に基づく情報収集力と、政治的な布石を駆使して成し遂げていくが、なんども挫折を味わっても新たな閃きで立ち直ってゆく強さは読んでいて励みになる。
「負けることには慣れている」という台詞がとても印象深い。

登場人物:
保科 正之/二代将軍秀忠の実子。文化による日本統一を目指して春海に改暦事業を命ずる。
水戸 光圀/春海を気に入り強力にサポートしてくれる。
酒井“雅楽頭”忠清/江戸幕府大老。春海に北極出地を命じる。
山崎 闇齋/神道学者。晴海の恩師。
本因坊 道策/春海を慕う囲碁の天才。
村瀬 義益/磯村塾を任された算術家。
関 孝和/春海の憧れ。「和算」の開祖ともいわれる日本数学史上の偉人。
えん/後妻。算術好きでからっとした性格は晴海のそれとは正反対。
建部 昌明/書家、北極出地に赴き晴海に天地明察の使命を課すことになる。
伊藤 重孝/御典医、北極出地に赴き晴海に天地明察の使命を課すことになる。

目次:
序章
第一章 一瞥即解
第二章 算法勝負
第三章 北極出地
第四章 授時暦
第五章 改暦請願
第六章 天地明察

2010年5月1日土曜日

カタコンベ

神山 裕右(講談社、2004/8/7)

本作品は、第50回江戸川乱歩賞受賞作。
「ケイビング(洞窟探検)」をテーマにしたミステリー。
主人公の東馬亮は、5年前、舞台となっているマイコミ平の地底湖ダイビング中に命を落としかけたが水無月健一郎の命と引き替えに救われる。しかし健一郎の遺体はおろか遺留品も発見されぬまま探索が打ち切られる。
いつか必ずマイコミ平の地底湖に戻って探索すると決めていたところに、マイコミ平に新たに発見された鍾乳洞の探検クルー募集を聞きつけ参加する。
現地に遅れて到着した東馬は、天候悪化が悪化したため先行したクルーが事故にあったことを知る。その中に命の恩人水無月の娘、弥生の名前を見つけ一人救助に向う。

過去に起こった事件を紐解く形でストーリーが進むが、登場人物の輪郭がやや弱く、あまり気持ちが入らない。そのためか、危機的な状況の緊迫感より、妙に話がうまく進む、という印象があった。

2010年4月30日金曜日

神様のカルテ

夏川 草介(小学館、2009/8/27)

本庄病院に勤務する内科医、栗原一止を主人公にした話。第十回小学館文庫賞受賞作。
本庄病院は日常的に医師が不足しているため三日間不眠不休で勤務を続けることも多く、また、専門外の患者を診ることも当たり前。こんな環境で5年間を過ごした栗原に母校の医局から誘いがかかる。
大学で先端医療を学ぶチャンスな訳だ。
しかし、地域医療の真っ只中でもう手だてがないために見放された患者たちの為に出来ることを一緒にする医者がいてもいいのではないかと悩む。

タイトルや帯のコピーから神懸かりや奇跡的なことが書かれているのかと勝手に想像していたが、物語も登場人物もとても人間的で、なので余計素直に温かい気持ちになる。

とくに妻ハルさんとの関係がいいな。

2010年4月26日月曜日

新世界より(上・下)

貴志 祐介(講談社、2008/1/24)

第29回日本SF大賞、大賞作品。
物語は、今から約千年後の日本の話。語り部で主人公の渡辺早季が子ども時代から35歳になった現在までの記録を更に千年後の同胞に向けて記した手紙という形で語られる。
渡辺早季は、この物語の暦で210年12月10日生まれ。

早季が暮らす千年後の世界は、超能力(呪力)を持った人間達が暮らす平和で争いの無い理想郷だ。子どもたちは大人から教えられることを疑うことなく鵜呑みにして成長する。情報過多の現代とは違い、ここでは徹底的に情報はコントロールされ子どもたちは管理される。管理できないと判断された子どもは、不浄猫により処分される。

人類は様々な争いを経ていたが、ある時より超能力を持った人間と持たない人間との対立による戦いとなる。結果、超能力を持ったもの達が勝利し、この理想郷を作るに至る。
しかし、この一見理想郷に見える社会は多くの代償により成り立っている。

超能者は一人で地球を破壊してしまうほどの力を恐れ、人間(の形をしたも)のには能力を使うことができない様に愧死機構という抑制力が埋め込まれた。また、人を傷つけた場合にもこの愧死機構が発動するように潜在意識に埋め込んだ。だから、人型の外敵に対しては為す術もないという欠点を持ってしまう。その災いの元(悪鬼や業魔と呼ばれる)を絶つ為に、不浄猫ってのが出てくる。(でも、指示した人の愧死機構は発動しないのかしら?)

上下巻で1000ページに及ぶ分厚い本なので、もっぱら家で寝る前に読んだ。
上巻はこの物語の世界観の説明が主で、これが中々かったるくて進まず、また、下巻にはいると随分物語は動くようになるのだが、不気味な虫だのグロテスクな生き物の描写が多く、どうも夢見が悪くなる本だった。但し、言わんとしていることは身近に思い当たることもあり、教訓的で興味深い。

2010年4月19日月曜日

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

岩崎 夏海(ダイヤモンド社、2009/12/4)

野球部のマネージャーになったみなみ。具体的に何をすればいいか解らず「マネージメントをするのがマネージャー」と考え、ドラッカーの『マネジメント』を読んで実践する。

野球部にとっての顧客とは、など不思議な視点で無理矢理話を進めるがそこそこ楽しめる。
ただ、がむしゃらに前進してきたみなみがちょっとしたきっかけで崩れてしまう件はちょっと唐突。

2010年4月16日金曜日

煙突の上にハイヒール

小川 一水(光文社、2009/8/20)

「SFが読みたい」でベストSF2009、13位に選ばれた小川一水の短編集。
ハードなSFではなく、どの物語も既に何処かで起こっているような、とても読みやすいストーリー。
但し、その内容は人の感情や社会の問題を鋭く見ていて決して軽いわけではない。
読後には、どことない寂しさとホンワカとした暖かさが残る。

「煙突の上にハイヒール」
結婚詐欺に引っかかって、落ち込んでいた宿原織香。口座を作るために来ていた銀行でふと目にした雑誌に載っていた背負い式一人乗りヘリコプター「MEW」。
何故か価格が口座を作るために用意した金額と同じ142万8千円。現金を手にその足で製作会社へ。

「カムキャット・アドベンチャー」
主人公の御厨が飼っている猫のゴローさん。最近太り始めたゴローさんは外で餌をもらっているらしい。
何処でもらっているか調べるために、首輪に小型ビデオカメラを取り付けて見てみると。

「イブのオープン・カフェ」
未知は雪の降るクリスマスイブの夜、ガラス張りのカフェの前庭にある、ディスプレイ席で悲しみに暮れている。ここで少年型介護ロボットのタスクと出会う。悲しいけどいい話。

「おれたちのピュグマリオン」
倉近稔が終業後にこっそり作っていたメイド姿のロボット「ミナ」。ある日、先輩で第四開発室長の吉崎晃司に見つかってしまうが、製品として世に出せるよう、話が進みいつしか世界に溶け込んでいく。
AIが苦手としている情報処理を回避するようなアイデアで、必要以上ににディテールに入らないので読みやすい。
ロボットが世の中に認知された後の社会における倫理観や制度に話が及ぶところがおもしろい。
もうそんなに遠い未来ではないと思わせる。

「白鳥熱の朝に」
インターフォンの音で目を覚ました狩野習人が玄関に出てみると、荷物を抱えたセーラー服の少女、山口芳緒が立っていた。鳥型インフルエンザウィルスが変異した「白鳥熱」の流行によって810万人の死者を出したこの世界は2015年の日本。
心の傷をもった、習人と芳緒が生きるパンデミック後の世界を書いた物語。
まだ、新型インフルエンザの世界的な流行のニュースが記憶に新しいが、報道時に何気なく聞いていた感染者の情報にしても、当事者からすればこんなにも残酷なことなんだ、ということに気がついた。

2010年4月11日日曜日

地球移動作戦

山本 弘(ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション、2009/9)

山本弘の本格長篇宇宙SF。
この前に読んでいた「わたしのための物語」と同じ時代設定の西暦2083年。
謎の新天体2075Aの調査のため、ブレイドを船長とする深宇宙探査船ファルケが派遣される。新天体2075Aを発見し「シーヴェル」と名付けるが、この星が24年後に地球に迫り壊滅的な被害をもたらすことを突き止める。
シーヴェル対策に追われる地球では、天体物理学者である風祭良輔が発案・提唱した計画の実行に向けて準備を開始するが、殺害されてしまう。

超光速粒子推進を実用化した「ピアノ・ドライブ」や、人工意識コンパニオンのACOM(エイコム)など、近未来に登場しそうな仕掛けが楽しい。特に人工意識コンパニオンが物語の中で重要な位置を占めている。同じ時代設定でも「わたしのための物語」よりは進んでいる。

2010年4月5日月曜日

あなたのための物語

長谷 敏司( ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション、2009/8)

主人公のサマンサがボロボロになって死を迎えるプロローグから始まる。この表現が壮絶。
物語は、サマンサが余命半年と宣告されてから死ぬまでの葛藤を描いた物語。

西暦2083年、ニューロロジカル社の共同経営者にして研究者のサマンサ・ウォーカーの研究室。脳内に疑似神経を形成することで経験や感情を直接伝達する言語 ITP (Image Transfer Protocol)の研究・開発の為、世界で初めてITPテキストによる創造試験体、仮想人格「wanna be」を量子コンピュータ上に立ち上げる。

サマンサは、自らの脳にITPを移植した際に、親の代の移植手術が原因の不治の病で余命半年と知る。
どんなに科学が進んでも「死」は必ずついて回る。また、科学が進んでいるが為に生きることに執着し、苛立ち、足掻く。

物語が進むにつれて、サマンサと「wanna be」の間に交流が生まれる。
サマンサの死が「wanna be」のシステム上からの消去=死となる関係でのやり取りは、心境の変化(サマンサ)と認識の変化(wanna be)が面白い。

2010年3月14日日曜日

完全なる証明

マーシャ・ガッセン、青木 薫/翻訳(文藝春秋、2009/11/12)

今世紀中の解決は到底無理と言われた「ポアンカレ予想」の証明。
その世紀の難問を解いたグリーシャ・ペレルマンの評伝。

クレイ研究所が100万ドルの懸賞をかけた7つの難題の一つ「ポアンカレ予想」の証明を2002年にインターネット上に公開され、これが正しいと証明されるが、ペレルマンは数学界からも世間からもすべての連絡をたって消えた。
同時代に旧ソ連で数学のエリート教育をうけた著者マーシャ・ガッセンが、関係者のインタビューからこの謎をとく。

前半部分は、旧ロシアの数学教育事情を振り返りながら、ペレルマンとペレルマンに関わった人たちの逸話で進行するが、ちょっと冗長で読むのに時間がかかった。但し、この経緯を知った上で後半を読み進めると話が解りやすくスムーズ。

文中に難解な方程式が羅列しているようなものではなく、「数学者というのはこういう事を考えているのか!」と言う事に触れられ興味深かった。

2010年2月12日金曜日

Boy’s Surface

円城 塔(ハヤカワSFシリーズ - Jコレクション、2008/1)

「このSFを読みたい」の上位に入っていたので、気になっていた本。
本屋で見つけて立ち読みして、何とも言えない「止められなさ」を感じて読み出した。
何とも癖になる文章だと思う。言わんとしていることとか、細かい部分はさておいて。