2004年12月4日土曜日

ハルビン・カフェ

打海 文三(角川書店)

第5回大薮春彦賞受賞作。
近未来、福井県西端の新興港湾都市・海市。大陸の動乱を逃れて大量の難民が押し寄せ、海市は中・韓・露のマフィアが暗躍する無法地帯と化した。相次ぐ現場警官の殉職に業を煮やした市警の一部が「P」と呼ばれる地下組織を作り、警官殺しに報復するテロ組織が誕生した。

こういう小説を読んでいると何となく凶暴な気分になる。

2004年11月27日土曜日

あしたのロボット

瀬名 秀明(文芸春秋)

ロボットが身近なものになる近未来、どちらも永久ではない「人間とロボット」の共生の形を模索した5編+1を収録。
「せつない未来」を描いたロボット小説集ということだけど、介護ロボットのための介護されるロボット、とか出てくると主体であるはずの人間は何処に行くのか、と思わざるを得ない。

「ハル—たましいと身体」ロボットには魂はあるのか?
「夏のロボット—来るべき邂逅」夏休みにロボットにあった女の子は。
「見護るものたち—絶望と希望」タイで地雷撤去に従事するロボットと地雷探知犬、そしてタイの少女との不思議な交流。
「亜希への扉—こころの光陰」小学生が拾った旧式のヒューマノイドがきっかけで。
「アトムの子—夢みる装置」一度はアトムを諦めた科学者が、老年から再度アトム誕生を目指す。
「WASTELAND」人類がすでに滅亡してしまった世界でロボットだけが生き残り歴史を紡いでいる世界。

2004年11月22日月曜日

神様のパズル

機本 伸司(角川春樹事務所)

第三回小松左京賞受賞作。
16才の天才少女・穂瑞沙羅華と素粒子物理ゼミに参加する留年寸前の大学生・綿貫基一が「宇宙を作ることはできるのか?」という難問に挑む。
宇宙論や量子論について語っている一方で、田植えを通した人とのつながりみたいなところに向かっていき、あまりSFっぽさを感じない。
加えて穂瑞沙羅華の描かれ方ががいい感じでした。

2004年11月20日土曜日

神は沈黙せず

山本 弘(角川書店)

「と学会」の会長ということでも有名な山本弘のSF長編。
幼い頃に土砂崩れで両親を亡くした兄妹が主人公。
その事故が元で神を信じることができなくなったフリーライターの妹・優歌が、「サールの悪魔」という言葉を残して失踪した人工知能研究者の兄・和久良輔について報告するかたちで「神」の存在を語る。

さすが「と学会」会長。サイドストーリーがてんこ盛りで本編がどうなっていたか忘れてしまいそう。雑誌やテレビで言っていることを盲信している人に是非読んでみてもらいたい。

2004年11月6日土曜日

異端の数ゼロ−数学・物理学が恐れるもっとも危険な概念

チャールズ・サイフェ(早川書房)

無限と対をなす「0」の話。
初めて知る、というか考えさせられることも多く面白い。

2004年10月20日水曜日

マルドゥック・スクランブル

冲方 丁(ハヤカワ文庫)










The First Compression 圧縮
The Second Combustion 燃焼
The Third Exhaust 排気
からなる三部作。

24回日本SF大賞とベストSF2003第一位を獲得したSFアクション。
主人公のルーン・バロットは、偽造された自分の身分を詮索しないことを条件にマルドゥック・シティ最大の合法カジノのボス、シェル・セプティノスに囲われていたが、つい自分の身分証明を調べたことから、車ごと焼き殺されてしまう。
瀕死の彼女を救ったのは、シェルを尾行していた、ドクター・イーストとネズミ型万能兵器のウフコックだった。
軍事目的に開発された技術の有用性を示すため、ドクターとウフコックは、高度能力を得て蘇生したバロットを守りながらシェルの犯罪を追う。
前半は、かつてウフコックの相棒だったボイルド、そしてボイルドが殺しを依頼するかなり変態的な集団との戦い。
後半はシェルのカジノで、ポーカー、ルーレット、ブラックジャックそれぞれのディーラーとの対決。

冒頭の「なぜ、私なの?」という少女娼婦ルーン・バロットのつぶやきは、けっこうみんな漠然と感じているじゃないかな。

2004年10月11日月曜日

カルカッタ染色体

アミタヴ・ゴーシュ(DHC)

1997年度のアーサー・C・クラーク賞を受賞作品。
近未来のニューヨーク。アンタールが国際水利委員会の目録整理をしていると、カルカッタで消息を絶ったかつての同僚ムルガンのIDカードがモニターに現れる。
ムルガンの足跡を追うアンタールと、 ムルガンが追ったマラリア感染のメカニズムに隠されたもう一つの「意味」を探る。
“カルカッタ染色体”とは?

2004年10月7日木曜日

永遠の森 博物館惑星

菅 浩江 (ハヤカワ文庫)

日本推理作家協会賞受賞作。地球と月の重力均衡点、ラグランジュ3に浮かんでいる博物館惑星「アフロディーテ」を舞台にした9つの物語。

「アフロディーテ」は、音楽・舞台担当の「ミューズ」、絵画・工芸の「アテナ」、動植物の「デメテル」という三つの専門部署からなり、専用のデータベースを直接頭脳に接続した学芸員が、分析鑑定・分類収納保存を行っている。主人公の田代孝弘は「アフロディーテ」に搬入された物品を専門部署に割り振り、各部署間の調停役を果たす「アポロン」に勤務する学芸員。毎回無理難題を押しつけられる。

「美」をロジカルに追求する田代に対し、妻・美和子の「きれい」と感じる心、という対比によって描かれている。
大量の情報に翻弄され、本質が見えなくなっている現代を写しているよう。
あまりSFっぽくなく自然に読める。ここが菅浩江さんのいいとこかな。 

2004年9月11日土曜日

八月の博物館

瀬名 秀明(角川文庫)

主人公の亨が、ふと足を踏み入れた古い洋館「ミュージアムのミュージアム」で出会った黒猫をつれた少女、美宇との冒険。
小学校6年生の亨と成人して小説家となった亨、そしてエジプトの遺跡発掘に活躍する考古学者オーギュスト・マリエット。
この3人の物語が絡み合う、なかなかいい話。

2004年8月21日土曜日

体内兇器

F.ポール ウィルスン(著)、猪俣 美江子(翻訳)(早川書房)

医療改革を目指す委員会のメンバーが連続して不審な死を遂げる。共通点は、かつて天才脳外科医として名を馳せた医師ラズラムの美容整形外科手術を受けたこと。
ラズラムの助手として働く内科医ジーナはFBI捜査官ジェリーとともに事件の謎を追う。

2004年8月7日土曜日

壜の中の手記

ジェラルド・ガーシュ(晶文社)

タイトルになっている「壜の中の手記」は、アンブローズ・ビアスの失踪を題材に創作しMWA賞を受賞した。

他に、難破して無人島に漂着したサーカス団の4人の物語「豚の島の王女」。
ジョン・ピルグリムの体験談「黄金の河」。
秘境の刑務所でのパシフィコの物語「ねじくれた骨」。
ヨーワード教授とグッドボディ博士の「骨のない人間」。
原爆で時空を超えてしまった日本人の話「プライトンの怪物」。
骨董品屋のジスカ氏が所有する指輪の話「破滅の種子」。
サー・マシー・ジョイスの蔵書売却を手伝うカームジン「カームジンとハムレットの本」。
頭蓋骨を貫通した刺繍針、犯人は。「刺繍針」。
ニコラス王の宮殿に時計職人として招聘されたポメル伯爵の話「時計収集家の王」。
アンガス・ヒューイッシュ博士の危険な実験「狂える花」。
武器商人、ヘクトー・サーレクの一生。「死こそわが同志」。
の12編。

2004年6月26日土曜日

ダーウィンの使者(上下)

グレッグ・ベア(ソニー・マガジンズ)

人類の進化に挑むバイオSF。
メインキャストは、考古学者のミッチ・レイフェルスン、分子生物学者のケイ・ラング、ウィルス・ハンターのクリストファー・ディケンの三人 。
世界各地に蔓延する謎の奇病、妊婦のみを襲い流産を引き起こす「ヘロデ流感」を巡り、ヒトの進化の謎に迫る。

考古学者のミッチは、アルプス山中で親子のミイラを発見する。
しかし、何故かネアンデルタール人の男女とホモサピエンスの赤ん坊という組み合わせ。
しかも、母親は腹を刺されて殺害された様子。
同じ頃、赤ん坊を身ごもった母親の集団墓地の調査にかり出された分子生物学者のケイと、流産を引き起こすウイルスを追うウィルス・ハンターのクリストファーが伝染病の噂を聞いて同じグルジアにいた。。

結末はオープンエンド。
続編の「Darwin's Children」が2003.4にでているが翻訳版は何時かなー。

2004年6月6日日曜日

フレームシフト

ロバート・J・ソウヤー(早川文庫)

バイオSF&ミステリー。
父親をハンチントン病でなくした遺伝学者ピエールと人の心が読める妻モリーが主人公。
ナチスによるユダヤ人捕虜殺戮、ネアンデルタール人、コンドル保険会社、体外受精といろんな話が巧妙に絡み合っている。

2004年5月8日土曜日

タイムライン

マイケル・クライトン(早川書房)

量子テクノロジーを使ったタイムトラベル古典冒険活劇。

フランスにある14世紀の遺跡で大学の歴史調査チームが発掘中に、現代の眼鏡のレンズと助けを求めるメモが見つかった。その直後、調査チームはスポ ンサーのITCによって呼び出され、遺跡発掘の責任者ジョンストン教授を救出してほしいと言われる。行き先は14世紀のフランスだった。

2004年4月15日木曜日

火星の人類学者—脳神経科医と7人の奇妙な患者

オリヴァー・サックス (著)、吉田 利子 (翻訳) (早川書房)

全色盲に陥った画家や見たものをすっかり記憶して描き起こす少年、激しいチック症状を起こすトゥレット症候群の外科医、自閉症の動物学者など7人の話。

改めて、健常者とは? 非健常者とは? と、問いたくなる読み物。

2004年4月10日土曜日

宇宙消失

グレッグ・イーガン(東京創元社)

ナノテクと量子力学。
2034年、夜空から星々が消えて33年。元警察官の主人公、探偵ニックは病院から消えた先天性脳欠損症の女性の捜索依頼を受ける。

2004年2月3日火曜日

「梅安冬時雨」仕掛人・藤枝梅安7

池波正太郎(講談社文庫)

仕掛人・藤枝梅安シリーズ第七作目。

物語り半ばで「絶筆」、未完の長編となった。
目次は「鰯雲」「師走の闇」「為斎・浅井新之助」「左の腕」「襲撃」。

梅安が「おれはもうだめだ」という台詞を言うようになったが、実は作者の事だったのではないか、と思ってしまう。

2004年2月1日日曜日

「梅安影法師」仕掛人・藤枝梅安6

池波正太郎(講談社文庫)

仕掛人・藤枝梅安シリーズ第六作目。

 本作は長編で、目次は「殺気の闇」「三人の仕掛人」「稲妻」「春雷」「逆襲」「菱屋の黒饅頭」。

白子屋菊右衛門を仕掛けたために、狙われる身となった梅安。

2004年1月31日土曜日

「梅安乱れ雲」仕掛人・藤枝梅安5

池波正太郎(講談社文庫)

 いよいよ白子屋菊右衛門との戦い。
表題作の「梅安乱れ雲」と短編「梅安雨隠れ」の二編を収録。
「梅安乱れ雲」の目次は、「寒烏」「凶刃」「東海道の雪」「瀨戸川団子」「薬湯と白飴」「引鶴」「殺気」「鵜ノ森の伊三蔵」「剃刀」「神田明神下」「東海道・藤枝宿」。

白子屋菊右衛門と梅安の対決が佳境へと向かう。一方、彦次郎は音羽の半右衛門から仕掛の依頼を受ける。相手は白子屋菊右衛門だという。

2004年1月30日金曜日

「梅安針供養」仕掛人・藤枝梅安4

池波正太郎(講談社文庫)

仕掛人・藤枝梅安シリーズ第四作目。
シリーズ初の長編、目次は「銀杏落葉」「白刃」「あかつきの闇」「その夜の手紙」「地蔵堂の闇」「寒鯉」。

小杉十五郎を巡って梅安と白子屋菊右衛門が対立する。

2004年1月28日水曜日

「梅安最合傘」仕掛人・藤枝梅安3

池波正太郎(講談社文庫)

仕掛人・藤枝梅安シリーズ第三作目。
表題作の「梅安最合傘」のほか「梅安鰹飯」「殺気」「梅安流れ星」「梅安迷い箸」「さみだれ梅安」の六編を収録。

白子屋菊右衛門から仕掛けを依頼され小杉十五郎も仕掛人の道へ。

2004年1月26日月曜日

「梅安蟻地獄」仕掛人・藤枝梅安2

池波正太郎(講談社文庫)

仕掛人・藤枝梅安シリーズ第二作目。
表題作「梅安蟻地獄」のほか「春雪仕掛針」「梅案初時雨」「闇の大川橋」の四篇を収録。


音羽の半ェ門、小杉十五郎、白子屋菊右衛門が登場。

2004年1月25日日曜日

「殺しの四人」仕掛人・藤枝梅安 1

池波正太郎(講談社文庫)

いつも妙なきっかけで読み始めることが多いが、今回も「梅安料理ごよみ」を読んでから池波正太郎にはまった。やはり酒食の表現がいいなぁ。

仕掛人・藤枝梅安シリーズ第一作目。
表題作「殺しの四人」のほか「おんなごろし」「秋風二人旅」「後は知らない」「梅安晦日蕎麦」の五編を収録。
品川台町に住む鍼医師・藤枝梅安と相棒の彦次郎。二人の仕事人の活躍を描く。

2004年1月21日水曜日

梅安料理ごよみ

池波 正太郎、佐藤 隆介、筒井ガンコ堂編(講談社文庫)

「江戸を喰う会」などを始めたら、いろいろ気になりだして手に取った初めての池波正太郎。
池波正太郎が梅安シリーズで描き出した、食事風景を佐藤隆介、筒井ガンコ堂の2人が作り方と共に解説する。
何度読んでも根深汁と浅蜊と大根の小鍋だてがたまらなく旨そうだ。

2004年1月19日月曜日

魯山人陶説

北大路魯山人 (中公文庫)

魯山人味道に続いて魯山人のうつわ論を読んだ。
陶芸というものに対しては全く興味がなかったが、おもしろく読めた。
「なんでも鑑定団」で言っていることが少し分かったような気がする。

2004年1月5日月曜日

魯山人味道

北大路魯山人(中公文庫)

自分が飲み食い好きなので、ずっと気になっていた魯山人。
読んでみると生き方そのものを語っていて、好きになった。
ただの我が儘ではない。

文体もとてもいい。
他の著作も読んでみよっ、という気になる。