2005年11月23日水曜日

象(かたど)られた力

飛 浩隆(ハヤカワ文庫JR、2004/9)

SFが読みたい2005「ベストSF2004」国内篇第1位になった作品。
短編4作品からなる本書は、1985-1992年までの作品が収録されている。
筆者は「ポリフォニック・イリュージョン」で第1回三省堂SFストーリーコンテストに入選、ASFマガジン1983年9月号発表の「異本:猿の手」で本格デビューを果たす。
以後、「象られた力」ほか、斬新なアイデアと端正な筆致による中短篇を同誌に発表するが、1992年の「デュオ」を最後に沈黙。
2002年、10年ぶりの著作にして初の長篇「グラン・ヴァカンス廃園の天使1」(ハヤカワSFシリーズJコレクションが「ベストSF2002」国内篇第2位を獲得している。

「棚ぼたSF作家」飛 浩隆のweb録  http://d.hatena.ne.jp/TOBI/

収録作品
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デュオ
SFマガジン1992,10月号、初出。
天才ピアニストをめぐる音楽SF。
語り手の回想というかたちで物語は進む。

呪界のほとり
SFマガジン1985,11月号、初出。
呪界と呼ばれる世界からふとしたはずみで別の世界にとばされてしまう万丈と竜。
助けてくれた老人は、その世界でたった一人の住人。

夜と泥の
SFマガジン1987,4月号、初出。
テラフォーミング(地球化)した惑星をリースするリットン&ステインズビー協会から買い取った惑星で起こる奇妙な現象。

象られた力
SFマガジン1988,9-10月号、初出。
謎の消滅を遂げた惑星「百合洋(ユリウミ)」で使われていた図形言語を解析する鍵となる「見えない図形」を探すことを依頼される主人公・クドウ圓(ヒトミ)。
テーマは「もの」と「かたち」と「ちから」。

2005年11月11日金曜日

ベルカ、吠えないのか?

古川 日出男(文藝春秋、2005,4)

古川 日出男、9作目にあたる本作品は書き下ろし。
犬の生涯や運命を通した20世紀の歴史を作者本人が語っている。

1943年・アリューシャン列島。
アッツ島の守備隊が全滅した日本軍は、キスカ島からの全軍撤退を敢行。
島には「北」「勇」「勝」「エクスプロージョン」の4頭の軍用犬だけが残された。そしてそれはイヌによる新しい歴史の始まりだった——。(文藝春秋)
作者曰く、小説はこの世の中と格闘するための実戦的なツール、武器であり、小説がただの小説で終わることを否定しはじめている、ということらしい。

確かに特徴的な文体にも磨きがかかっている。

2005年11月5日土曜日

万物理論

グレッグ・イーガン、山岸 真/訳(創元SF文庫、2004,10)

SFが読みたい2005「ベストSF2004」海外篇第1位になった作品。

物語の舞台は、2055年遺伝子工学を珊瑚礁に応用したという地球でたったひとつの無政府の島「ステイトレス」で行なわれる「アインシュタイン没後100周年記念」の国際理論物理学会議。
完成寸前の「万物理論(すべての自然法則を包み込む単一の理論)」を発表する3人の内の1人、20代のノーベル賞受賞者ヴァイオレット・モサラを中心に、この万物理論の番組を製作することになったが、様々な困難が。
主人公はバイオ系を専門とする映像ジャーナリスト、アンドルー・ワース。
自らの体内にメモリを埋め込み、視神経にチップを直結して目で見たままの映像を記録したり、ホルモンを制御して睡眠のコントロールをしたりと、SF的なネタには事欠かないが、話の幅が広く長い。