2005年7月28日木曜日

鏡の国のアリス

広瀬 正(集英社文庫、1982.5.25)

左右が逆の世界に迷い込んだ主人公・木崎浩一の物語。
ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」の引用から始まる。
広瀬正の小説は、いつもサイドストーリーが充実している。
今回は、鏡の中の世界と現実世界はどう違うのかを、授業形式で解説したり、建造物がいかに完全な対称物にならないように注意しているかを、歴史的な建物を引き合いに出して説明するなど手抜きはない。
ルイス・キャロルが「鏡の国のアリス」を書く切っ掛けになった事などもしっかり盛り込まれている。

そういえば、ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」は1871年に書かれたとの事、この前に読んだ「半身」の舞台と丁度重なり何とも不思議な気分。
さらに、当時四次元という観念が数学者の間でも話題となり、早速心霊研究者達は「心霊の居る世界は四次元の世界だ」などと言っていた、ともあり尚更。

他に、短編3作を収録。
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1. フォボスとディモス
火星から二人の尾崎健一が帰還する。

2. 遊覧バスは何を見た
1925年12月20日、バスに酔った妻を介護してもらった事から、堀川隆造と佐山達吉の縁が始まる。

3. おねえさんはあそこに
宇宙人の子供を育て、引き取りに来てもらうという竹取物語のような話し。

2005年7月26日火曜日

半身 (Affinity)

サラ・ウォーターズ、中村 有希/翻訳(創元推理文庫、2003.5.23)

「このミス」2004版、1位の当作品は、サラ・ウォーターズ (Sarah Waters)の長編第2作目。
19世紀のロンドンに実在したミルバンク監獄を舞台に日記形式でつづる物語。
主人公のマーガレット・プライアは、1874年9月24日慰問に訪れた監獄で出会った女囚、シライナ・ドーズに惹かれていく。
ドーズは、1873年8月3日に行なった交霊会での事故により投獄された霊媒だった。
物語の舞台であるビクトリア時代にほとんど興味がない ので、読み切ることが出来るか不安を感じたが、思った通り中々ページが進まなかった。
しかも全5部構成中、第4部までは歴史小説のような流れで、何処でミステリーになるのかな、などと思いながら淡々と読み進めるが、最後になって、おっ、そういう事ね。と、一気に解決。
この手のものを読むには、まだまだかなと思う次第。

原題の「Affinity」はこの物語を端的に著している良いタイトルと思う。
* 親縁とか引きつける力とか類似とか近化とか。

2005年7月21日木曜日

葉桜の季節に君を想うということ

歌野 晶午(文藝春秋 本格ミステリ・マスターズ、2003.3.30)

話しは、高校に通う舎弟のキヨシに頼まれ、霊感商法事件に巻き込まれた元探偵の「何でもやってやろう屋」成瀬将虎の物語。
本編と移行して進む主人公の過去の物語がサイドストーリーとして良い伏線となっている。
この物語は小説ならではのトリックで成っており、映像化はできないだろうな。
主な登場人物は、成瀬将虎、キヨシ、久高愛子、久高隆一郎、古屋節子、安藤士郎、将虎の妹・綾乃など。

この作品を読む切っ掛けは、2004年版「このミス」1位、2003文春ベスト10で2位を獲得したということ。
従って、作者の事も知らなければ、ミステリー云々という思いこみもなく読んだが、楽しめた。
歌野晶午の他の作品も読んでみたい。

2005年7月16日土曜日

マイナス・ゼロ

広瀬 正(河出書房新社、1977.3.10)

昭和20年5月25日夜の空襲。
中学2年の浜田俊夫は、隣家の「伊沢先生」が倒れているところを発見し助けようとするが「18年後にここに来てほしい」と言い残して命を落とす。
18年後の昭和38年。浜田俊夫は元の隣家に住む「及川」を訪ねるが、そこで出会ったのは。空襲の最中に行方不明になった時のままの伊沢先生の娘・啓子だった。

空襲の夜「伊沢先生」がタイムマシンを使って啓子を18年後に送り込んだことを知った俊夫は、自らタイムマシンに乗り込み、「伊沢先生」が住み始める1年前の昭和9年へ向かう。ところが、着いた時代は昭和7年。
元の時代に戻るつもりがタイムマシンにおいて行かれてしまう。
取り残された浜田俊夫はその時代で生活を始める。

浜田俊夫、伊沢啓子、小田切美子(及川美子)、及川伝蔵が入り乱れて話が進むが、伊沢先生は?

広瀬正の長編第一作作品。
解説によると「宇宙塵」に長期にわたり連載され大変評判になったにも関わらず、出版社が決まらずなかなか単行本化されなかったらしい。
SFというのがまだ受け入れられなかったのだが、単行本化されると直木賞候補にまで挙がった。

2005年7月13日水曜日

占星師アフサンの遠見鏡

ロバート・J・ソウヤー、内田 昌之(翻訳)(ハヤカワ文庫SF、1994)

主人公のアフサンは、知性のある恐竜、キンタグリオ一族。
宮廷に仕える占星師タク=サリ−ドのもとで見習中の弟子として勉学にはげむ少年恐竜。

神を絶対的なものと考え、森羅万象を非科学的に解釈する師サリードの教えに不満を感じてもいたアフサンは、ワブ=ノヴァトの発明した遠見鏡を使って今まで誰も考えた事のない事実を知り、それを伝える役目を負う。
真実を求める少年恐竜の成長を描く冒険SF。
ソウヤーの小説では、いつも思いもよらない展開に驚かされるが、今回の恐竜ガリレオ物語もとても盛りだくさんな内容で楽しめる。

縄張り意識とか本能である殺戮の衝動など恐竜という代弁者を使ってはいるものの、そっくり人間に当てはまるところが妙に腑に落ちる。
結局人間も野生動物なのね、と。

2005年7月9日土曜日

闇の中から来た女

ダシール・ハメット、船戸与一(訳)(集英社、1991/4/25)

作者は、タフで非情な主人公を描く事でハードボイルド小説を確立した、ダシール・ハメット。
闇の中から来た女は、1933年4月8日、15日、22日の3回にわたって「リバティ」誌に連載された。
大地主、ロブソンが君臨する司法権も行政権も私物化された田舎町マイル・ヴァレー。
スイスを訪れたロブソンは高慢で自惚れが強い歌手のルイーズ・フィッシャーを、金にものをいわせてこの片田舎に連れてくるが、ロブソンに愛想を尽かし逃げ出してしまう。

しかし、足首を捻って転んでしまい膝にけがを負ったルイーズは近くの一軒家に助けを求め、3週間前に出所したばかりのブラジルと出会う。

2005年7月7日木曜日

T型フォード殺人事件

広瀬 正(新鋭推理作家書き下ろしシリーズ、講談社、1972/6/20)

「T型フォード殺人事件」は広瀬正の遺作となる。

老社長宅に集まった七人の男女に、日本に5台しかない1924年製T型フォ−ドが披露される。
メンバーは、主人の泉大三、娘のユカリ、娘のフィアンセのロバート・ジョーダン、
小説家の白瀨、大学助教授の早乙女寛、医師の疋田善三、自動車修理工の蘇我二郎。

このT型フォードは、医師、疋田善三の祖父が大正14年購入したものを、泉大三が譲り受けたものだが、46年前のある事件を切っ掛けに死蔵されていた。

その事件とは、鍵の掛かったT型フォードの車内に死体が置かれていたという密室殺人事件だった。
台風の夜、密室殺人事件の真相を探るゲ−ムが始まる。

2005年7月5日火曜日

タイムマシンのつくり方

広瀬 正(集英社文庫、1982/7/25)

集英社文庫の「広瀬正・小説全集・6、タイムマシンのつくり方」には、昭和36年から40年あたりに書かれたSF短編のほとんど(25タイトル)が納められている。

・ザ・タイムマシン
ムテン博士のタイムマシン解説
・Once Upon A Time Machine
親殺しのパラドックスを扱った小説。歴史の自己補修作用を持ち込んで解決。
・化石の街
時間経過が極端に遅い街に迷い込んだ主人公を描いた小説
・計画
戦争にタイムマシンを使用して勝利を収めた国の話し。ムテン博士がタイムマシンに乗り込み実験を行う。過去にさかのぼって一つ石を拾って戻ってみると。バタフライ効果ネタ。
・オン・ザ・ダブル
人間の毎日の生活周期を少しずつ早めていけばそれに比例して体のリズムも早くなるのでは。被験者を一日に五百分の一ずつ時間が早くなる部屋に1年間閉じこめて実験を行なう
・異聞風来山人
平賀源内はタイムマシンを持っていた。
・敵艦見ユ
オハラ航空研究所で完成した航時機T1号の第3回非公式実験で対馬海戦のあった1905年5月27日に遡る。
・二重人格
駅の地下道で人波に押され気を失った佃正博、なぜか猪俣銀二という男の記憶が現れる。多元宇宙SF。
・記憶喪失薬
一時間前からの記憶を消す薬をもったセールスマンがやってくる。
試供品の三分用を試して、購入するがすぐに今の薬はインチキだと老人が現れる。
・あるスキャンダル
ロボットを売っている仕事熱心な山川氏。一日の終わりには四角い固まりになる。
・鷹の子
亭主を亡くし、息子までなくした良家の夫人。そこへ現れた左官屋が「息子さんが亡くなった日時にうちの子供は生まれました」と養育費の援助を申し入れる。
・もの
広瀬正のSF処女作。
下駄を見た未来人達が考える使い方とは。
・鏡
鏡に声を取られてしまった男の話。
・UMAKUITTARAONAGUSAMI
筒井康隆の解説から「フレドリック・ブラウンの影響があきらかにうかがえる時間テーマのSF落語」
・発作
1分後の世界から自分がやってくる。「ゆっくり説明しているひまはない…」
・おうむ
博士の発案した新型の発声装置。テストをすると、ロボットに博士の発音が悪いと指摘される。
・タイム・セッション
タイムマシンで過去のニューヨークにチャーリー・パーカーの演奏を聴きに行くが、ドルを忘れた主人公は。
・人形の家
精巧に出来たドールハウス。よく見ると…。
・星の彼方の空遠く
前人未踏と思われていた遊星に人が住んでいた。探検隊が訪れるとふたりのよく似た男が出迎える。
・タイムマシンはつきるとも
盗んだタイムマシンを使って泥棒に入る。タイムマシンに乗って逃げようとすると…。
・地球のみなさん
先生のうちに毎日色々なものを持ってきては小遣いをもらってい行く少年。この日はエンバンを見たというが…。
・にくまれるやつ
悪いやつには後ろめたい事が多く敵が多い。
・みんなで知ろう
未来から歴史を振り返ってみるというアイデアのSF。
・タイムメール
未来から自分の著作が掲載された雑誌が送られてくる。
・付録「時の門」を開く
ハインラインの「時の門」のアナを捜す解説もの。

2005年7月1日金曜日

さよならダイノサウルス(END OF ANERA)

ロバート・J・ソウヤー(著)、内田 昌之(翻訳)(ハヤカワ文庫SF)

恐竜絶滅の秘密を探るため、2人の古生物学者、ブランドン・サッカレーとクリックスことマイルズ・ジョーダンがタイムマシンで6500万年前の白亜紀末期に旅立つ。
と、ここまでは何となく先が読めそうな物語かな、と油断して読んでいたら全然違いました。
恐竜があんなに巨大化できた理由と火星が死の惑星になった理由が「リンク」してくるところあたり、もう恐竜は切っ掛けでしかなくなってきます。

文中で、レイ・ブラッドベリの短編「雷のような音」の説明をするところがあり、丁度バタフライエフェクトが気になっていたのでちょっとスッキリ。