2010年4月16日金曜日

煙突の上にハイヒール

小川 一水(光文社、2009/8/20)

「SFが読みたい」でベストSF2009、13位に選ばれた小川一水の短編集。
ハードなSFではなく、どの物語も既に何処かで起こっているような、とても読みやすいストーリー。
但し、その内容は人の感情や社会の問題を鋭く見ていて決して軽いわけではない。
読後には、どことない寂しさとホンワカとした暖かさが残る。

「煙突の上にハイヒール」
結婚詐欺に引っかかって、落ち込んでいた宿原織香。口座を作るために来ていた銀行でふと目にした雑誌に載っていた背負い式一人乗りヘリコプター「MEW」。
何故か価格が口座を作るために用意した金額と同じ142万8千円。現金を手にその足で製作会社へ。

「カムキャット・アドベンチャー」
主人公の御厨が飼っている猫のゴローさん。最近太り始めたゴローさんは外で餌をもらっているらしい。
何処でもらっているか調べるために、首輪に小型ビデオカメラを取り付けて見てみると。

「イブのオープン・カフェ」
未知は雪の降るクリスマスイブの夜、ガラス張りのカフェの前庭にある、ディスプレイ席で悲しみに暮れている。ここで少年型介護ロボットのタスクと出会う。悲しいけどいい話。

「おれたちのピュグマリオン」
倉近稔が終業後にこっそり作っていたメイド姿のロボット「ミナ」。ある日、先輩で第四開発室長の吉崎晃司に見つかってしまうが、製品として世に出せるよう、話が進みいつしか世界に溶け込んでいく。
AIが苦手としている情報処理を回避するようなアイデアで、必要以上ににディテールに入らないので読みやすい。
ロボットが世の中に認知された後の社会における倫理観や制度に話が及ぶところがおもしろい。
もうそんなに遠い未来ではないと思わせる。

「白鳥熱の朝に」
インターフォンの音で目を覚ました狩野習人が玄関に出てみると、荷物を抱えたセーラー服の少女、山口芳緒が立っていた。鳥型インフルエンザウィルスが変異した「白鳥熱」の流行によって810万人の死者を出したこの世界は2015年の日本。
心の傷をもった、習人と芳緒が生きるパンデミック後の世界を書いた物語。
まだ、新型インフルエンザの世界的な流行のニュースが記憶に新しいが、報道時に何気なく聞いていた感染者の情報にしても、当事者からすればこんなにも残酷なことなんだ、ということに気がついた。

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