2005年9月2日金曜日

沈黙

古川 日出男(幻冬舎、1999/07)

「獰猛な舌」を具えて固有の顔をもたない、大瀧鹿爾(おおたき ろくじ)。
第二次大戦敗戦直後のビルマを逃亡中、日本人を捜すうちに、かつての上官・山室龍三郎大佐にあう。
山室の「おれは悪そのものであり、その悪を、生きとし生けるものに自覚させる」ということばに、鹿爾は心を乱す。
第一部、ビルマを逃走する大瀧鹿爾の書き出しがとても良く、一気に引き込まれた。
「獰猛な舌」とは「悪」とは。。

第二部となり舞台は現在の東京、「アビシニアン」で保健所を襲った秋山薫子がここからの主役。
ふとした切っ掛けで祖母・下岡三稜の姉・大瀧靜と知り合い、鹿爾の長男・修一郎が残した11冊のノート「音楽の死」の解読を進めるうち薫子は自分が、鹿爾、修一郎と同じ「獰猛な舌」を持つ家系と知る。

悪に対抗するものとして「音楽」がキーとなっている。
第一部では、山室大佐のことばに心を乱した鹿爾は、三つ目の村で聴いたモン族の若者が蜜柑の葉で奏でる「森の官能をそのまま響きに変えたような、豊饒さを具えた音楽の旋律」すら忘れてしまう。
強い悪にふれ、音楽が負けてしまったのか。

第二部以降は、失聴となった修一郎が残したノートから薫子はルコ(rookow)を知り追い求める。
「音楽は娯楽ではない。音楽は生存のための儀式である」とは、修一郎のメモ。

一方、小学生の時から「ぼくは闇だ」という薫子の弟・秋山燥(やける)。
人の悪意を解放する燥(やける)を近くに感じ、薫子は「純粋な悪意」を葬る。

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