古川 日出男(集英社、2003.9.10)
小笠原諸島の無人島に漂着した2人の子供。海難事故で父親を亡くした6才の「トウタ」と母親の無理心中から運良く助かった4才半の「ヒツジコ」。
漂着から2年強が過ぎた1997年、東京都の職員に発見され父島での生活がはじまる。無人島で確立した自我を秘めながら。
出版社/著者からの内容紹介では、
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2009年・ヒートアイランド化した東京。
神楽坂にはアザーンが流れ、西荻窪ではガイコクジン排斥の嵐が吹き荒れていた。
これは真実か夢か。
熱帯都市・東京をサバイブする若者を活写する長編。
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とあるが、3人の主役を取り囲む人間模様が主立ったもの、という印象。
確かに「”小説すばる”掲載の3作品をもとに構成した前半部分と、書き下ろしの後半をまとめて単行本化」というように合体作であるためか、それぞれのエピソードがもっとディテールがあっても良いのでは、とやや欲求不満な箇所もある。
著者の古川 日出男氏が「ジャンルをあえて言えば、疾走小説です」「平面的なひろがりだけでなく、東京の縦軸も描きたかった」と言うように、後半に行くほど「疾走」感が加速し、路地裏(裏世界)、空(鴉)、地下(傾斜人)と縦横無尽に展開する。
序盤で描かれるトウタとヒツジコの自我の確立期に、小学4年の始業式に島に赴任してきた教師・佐戸川俊一は「オブセッションと囁く」。
この後、キーワードとなる「オブセッション(Obsession)」は「妄想、脅迫観念」を意味する。古くは悪魔や悪霊による「憑依」の意味もあるが、現 代では「時に不合理とわかっていながら、ある考えや感情がしつこく浮かんできたり、不安なほど気掛かりになること」という精神医学・心理学的な精神の乱れ を指す言葉だが、物語全体に流れる力を良く表している。
繁殖しすぎた羊を殺さなくてはならない
純粋な日本人でなくてはならない
世の中の「常識」といわれる事は「オブセッション」。。。
ラストは「いっしょに東京を奪還するかぁ、ヒツジコ」と携帯電話越しに話し終わる。
東京の「オブセッション」を解放するという事かな。
主な登場人物
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トウタ
音楽を持たない少年
- 海の老人
- リリリカルド
- ピアス
ヒツジコ
無人島で地震の時に感じた「重力から放たれて自らの輪郭すら変化する、その状態の再現を求めて」ヒツジコは自分の体内に地震を起こすべく踊り続けたが、遠泳大会での事故以来、対象が外に向けられる。
- 中山 優高(遅刻ガール・ユーコ)
- 湊 冬子(寮生かつらガール・フユリン)
- 聖 バビロニア(全身全霊ガール・カナ)
レニ
新宿区新小川町・俗称レバノン生まれ、鷹匠の末裔レニ。
性別を自分の意志で場所ごとに選択する。生存戦略としての多性。
家族のカラス・クロイとともに傾斜人に映像銃で戦いを挑む。
- 居貫 正道(ポルノグラファー)
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