2005年10月22日土曜日

くらやみの速さはどれくらい

エリザベス・ムーン、小尾芙佐/訳(早川書房、2004.10.31)

21世紀版「アルジャーノンに花束を」と評されネビュラ賞を受賞した作品。
また、SFが読みたい2005「ベストSF2004」でも7位。
医学の進歩によって、自閉症は幼児期に治療すれば治すことが出来るようになった近未来。
製薬会社のセクションA(自閉症者部門)で働く35才のルウ・アレンデイルは、最後の世代の自閉症者。
物語は、パターン認識と解析に優れた能力を発揮する自閉症者・ルウの視点で「正常(ノーマル)な人」にとっては当たり前の人の心と社会を描写しながら進む。

新任の上司・ジーン・クレンショウはセクションAの経費削減を目的に、動物実験で効果が確認された新しい自閉症治療の実験台になるよう迫る。

治療というと「正常な人」を標準として、正常ではない人を「標準に治す」ことが当たり前に語られる。
著者の謝辞にも名前が出ていたオリバー・サックスの書でも先天性の全盲者に後から視力を与えても、はじめから視力がある「正常な人」とは同じにはならないなど、興味深い臨床例を読むことが出来る。

自分でも時々ハッとするが、必要な援助をするつもりで接していても、つい可哀想にと哀れんだり、無意味な優越感を持っていたりしてないだろうか。

ルウの目を通した現実社会の描写はいちいち思い当たることがあり面白い。
物語は、ハッピーエンドではあるものの素直には受け取ることが出来ないエンディング。

タイトルは、著者の自閉症の息子質問がヒントだったそう。
息子「光の速さが、秒速186,000マイルだとしたら、暗闇の速さはどれくらいなの?」
著者「暗闇に速さはないのよ」
息子「暗闇の方が速いはずだよ。だって最初に暗闇があるんだから」

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