2010年6月29日火曜日

ハーモニー(ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

伊藤 計劃(早川書房、2008/12)

2010年度、日本SF大賞を受けたハーモニーを読んだ。
2009年3月にガンで死去した筆者、伊藤計劃の遺作となった。
従って、受賞は作者が死去したあとだった。

「ハーモニー」は、従来の「政府」に代わって「生府」が健康を管理する社会を築く。
どんな思いで執筆していたかなど知る由もないが。

21世紀後半、「大災禍(ザ・メイルストロム)」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は医療経済を核にした福祉厚生社会を実現していた。「生府」が配布するメディケア「WatchMe」で全身を隈無く監視される時代。そんな中、御冷ミァハの「一緒に死のう、この世界に抵抗するために」をきっかけに、霧慧トァン、零下堂キアンの3人の少女は餓死することを選択するがミァハ以外は生き残った。
と思っていたが。。

文章を、というMarkup Language形式で書いているところが面白い、これは人間以外の知性に対して伝えるための試作なのかも。

2010年6月21日月曜日

洋梨形の男

ジョージ・R・R・マーティン、中村 融/訳(奇想コレクション/河出書房新社、2009/9/15)

本書は SF が読みたい! 2010「ベストSF2009」で第3位。
SF 分野の受賞なのに、うたい文句はホラー短編集、というところに興味を持って読みだした。
はっきり言ってこの手の話はかなり好きな部類で久々に最近使っていなかった部分が活性した気がする。

収録作品は、以下の六編。
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■ モンキー療法
1984年度のローカス賞ノべレット部門受賞作品。
ダイエットをテーマにしたホラー作品。太った男、ケニー・ドーチェスターは、以前会員だった減量クラブで唯一、自分よりも体重のあったヘンリー・骨男・モロニーがガリガリにやせた上、リブステーキを4枚も平らげているところを目撃する。
減量の秘訣を訪ねると「モンキー療法だ」といい住所を教えてくれる。

■ 思い出のメロディ
弁護士デッドのマンションに、学生時代のルームメイト、メロディが訪ねてくる。
これまでにメロディには、様々な厄介ごとを持ち込まれた経緯があるためテッドは警戒するが、案の定、話はこじれメロディに出て行くようにきつく言い部屋を出る。数時間後帰宅すると、シャワールームからシャワーの音が。
最後まで手を抜かない怪談話。

■ 子供たちの肖像
1985年度のネビュラ賞ノべレット部門受賞作品。
小説家のリチャード・キャントリングの元に彼の小説に登場する人物の肖像画が送られてくる。送り主は娘のミッチェル。彼女が描いた絵は、夜になると絵から抜け出しキャントリングに話しかける。
この話は終わり方がビミョーで、夢なのか、超現実なのか、判断に困るところ。

■ 終業時間
バーテンのハンクは、カウンターに座る常連、バーニー・ディルがいつも話す夫婦生活の愚痴をウンザリしながら聞いていた。そこに怒り狂った常連のミルトンが店に現れる。よれよれピートをぶっ殺してやる、と叫びながら。
理由は、鷹に変身できるという触れ込みで売りつけられた護符が、ペテンだったと説明したが。

■ 洋梨形の男
1988年度ブラム・ストーカー賞ノベレット部門受賞作品。
ジェシーが越してきたアパートの地下にすむ洋梨形の男を巡る話。
これも話の終わり方が混沌としていて、判断に困るところ。

■ 成立しないヴァリエーション
ピーターは、学生時代のチェスグループのメンバー、ブルース・バニッシュの誘いを受け家を訪ねる。そこには当時の仲間E.C.とスティーブも呼ばれていた。今では、億万長者となったブルースは学生時代いじめられた復習をしようと考えていた。
タイムトラベルもの、この絶対終わらないブルースの執念はすごい。

2010年6月18日金曜日

ガリレオの苦悩

東野 圭吾(文藝春秋、2008/10/23)

ガリレオこと湯川が警察への協力を止めてからの物語。新たに内海薫が登場して、何となくテレビシリーズのイメージが持ちやすくなった。女性ということで差別されるのが嫌いな薫に対して、そのことを意識するあまり薫自身がその呪縛に陥っていることを暗に指摘する湯川の観察眼がいい。

「第一章   落下る」
一人住まいの女性がマンションから転落して死亡した。自殺か他殺か?
警視庁捜査一課の刑事・内海 薫は、被害者の恋人が犯人であると直観する。
自殺に見せるためのトリックを暴くため、草薙にたのみ湯川への紹介状をとりつけた薫は湯川のもとへ。
捜査協力を止めた湯川を再び現場へ向かわせる。

「第二章   操縦る」
脳梗塞の後遺症のため車椅子に頼って生活をおくる元大工学部助教授の友永幸正は、実の息子、邦宏と後妻の連れ子、奈美恵と共に複雑な家庭環境で生活している。邦宏とはうまくいって居らず口論が絶えない。
ある日、かつての教え子が彼の自宅に集うことになっていた日、ガラスが割れる音とともに離れが火事になり、邦宏の他殺体が発見される。
招待客の一人であった湯川は、不審に思い事件を調査する。

「第三章   密室る」
湯川の大学時代の友人、藤村が自身が経営するペンションで起きた事件の解明を依頼する。
湯川が当日の状況を詳しく調べるうちに意外な真相を突き止める。

「第四章   指標す」
老婦人が遺体で発見される。留守番中に強盗にあったのだが、仏壇に隠してあった金の地金だけが盗まれる。捜査上には地金の隠し場所を知っていた保険外交員の真瀬貴美子が容疑者として浮かぶが、同時にその娘、葉月の行動を監視していた薫は思わぬ光景を目にする。
書き下ろし作品。

「第五章   撹乱す」
人事異動のため研究部門から外されたことをきっかけに、由美を殺害してしまった高藤英治は、湯川に対する逆恨みから悪意を抱き「悪魔の手」と名乗り警視庁に挑戦状を送る。
英治は、過去に学会発表の際、湯川から質問されたことを根に持っていた。

2010年6月13日日曜日

シーズザデイ

鈴木 光司(新潮社、2001/04/ 1)

本作品は、1999年4月から2000年9月にかけて「小説新潮」に掲載された鈴木光司初の連載小説。
筆者あとがきを読むと、通常は脱稿するまで結末を決めずに行き当たりばったりで執筆するスタイル、だそうだが、今回は連載小説ということもあり「驚くべきことに半分ぐらい書き進んだところで、ラストが見えてきた」とのこと。
確かに半分ぐらいまでは、話がどこにゆくのかわからず登場人物への色づけが行われている感じで、読んでいても気持ちが滅入るエピソードが続く。
特に主人公の船越達哉は、体育会系の船乗りなのだがスポーツマン的なイメージとはかけ離れた印象がある。これも何事にも自信がもてず、優柔不断で自分勝手という印象を抱かせるエピソードのせいだろう。
これが、中盤を過ぎるとはっきり目標に向かって進み出すが、同時に先々の予想もついてしまった。
最初は、謎の金持ちだった岡崎も、物語の後半にゆくに従って様々な導きをもたらすキーへと進化していく。語る内容も興味深くつい今の自身に語られていることのように思えることがあった。

主な登場人物
主人公、船越達哉
達哉のかつての恋人、月子
達哉と月子の娘、陽子
船越のヨットの元オーナー、岡崎
岡崎の娘、稲森裕子
蒸発した船越の父、船越章一郎(水上開地)
章一郎の妻、水上都志子
章一郎と都志子の娘、水上朝代

2010年6月11日金曜日

夜明けの街で

東野 圭吾(角川書店、2007/07)

不倫ものに殺人トリック。と思っていたら全然違い。あっ、そうなるの。という感じでした。

一部上場の建設会社に勤務する渡部の部署に、仲西秋葉が派遣社員としてやって来る。
ひょんなことから不倫関係を持つようになるが、話を聞くうちに秋葉の家庭には特殊な事情があることを知る。
両親は離婚、その後母親は自殺。その直後に横浜の実家で父の愛人が殺されるという事件が起きた。その時効まで数ヶ月。

「不倫するやつなんて馬鹿だと思っていた。」という、書き出しを読んだ時点で既に作者の罠にはまってしまった。このあたりやっぱりうまいな。というか、俺が単純なんだな。

2010年6月10日木曜日

レイクサイド

東野 圭吾(文藝春秋、2006/02)

中学受験とそれに関わる人間模様をテーマにした物語。
中学受験を控えた子供を持つ家族四組が姫神湖の別荘に集まって合宿しているところへ、主人公・並木俊介が遅れて参加する。
しばらくして、そこへ俊介の部下、英里子がやってくる。
英里子は、俊介に頼まれ妻の浮気を調べていた。突然の来訪ではあったが若い女性ということで引き止められ泊まっていくことになる。事情がつかめない俊介が問いただすと、2時間後にはすべてがはっきりするという答え。
俊介は約束の場所で待つが英里子が現れないので、別荘に引き返すとそこで英里子は殺害されていた。
加害者は俊介の妻、美菜子だという。
本来なら、警察に連絡して。というのが当たり前だが、合宿参加者が皆そろって事件の隠蔽工作を積極的にすることに疑問を感じる俊介。


なんともドロドロとした人間関係と、世間ずれした感覚だが、ありそうな話でもあり、うーん。という感じ。

2010年6月8日火曜日

カッコウの卵は誰のもの

東野 圭吾(光文社、2010/1/20)

スポーツをテーマにしたサスペンス。
元日本代表のアルペンスキーヤー緋田の娘、風美は将来を有望視されているアルペンスキーヤー。
風美は勤め先である「新世開発スポーツ科学研究所」のサポートの元、世界を目指してトレーニングを続けている。
新世開発スポーツ科学研究所の研究者、柚木洋輔は、遺伝の組み合わせをパターン化し、同じパターンをもった親子ではその運動能力を継承する、ということを立証しようと、サンプルとして緋田親子に協力を頼むが断られる。

早い時点で、風美が実の娘ではなく何らかの事件に関わっていると言うことが明らかにされていくので、簡単なストーリーなのか、と思っていたらやはり東野作品。そんなわけ無く一気に面白く読め、内容の割にはすっきりとした読後感が残った。もしかするとこの前に読んでいる「禁断のパンダ」がすっきりしなかったからかも。

2010年6月6日日曜日

禁断のパンダ

拓未 司(宝島社、2008/1/11)

2008年『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。
美食をテーマにしたミステリー。
神戸でフレンチスタイルのビストロを営む料理人、柴山幸太は、妻の友人と木下貴史との結婚披露宴に出席する。同じテーブルになった貴史の祖父、中島弘道はゴッド中島といわれた料理評論家だった。
その翌日、貴史の父・義明が営む会社に勤める松野庄司の刺殺体が神戸ポートタワーで発見される。

キャラクターの線が細いのと、中盤以降いっぺんに話がつながってくる流れのためか、はじめの方はぐいぐい引き込まれるという感じではなかったが、落としどころが見えてきてからはあっという間に読み切った。
一番最後のページがちょっとわからない。幸太の買い出しから貴史の話に移るところは、単純に貴史が弘道の血を引いている、という判断でいいのかな?